新刊翻訳書を、訳を手がけた翻訳者の方がみずから紹介。書籍の読みどころを、訳者ならではの視点で語ります。
『独裁者の料理人
厨房から覗いた政権の舞台裏と食卓』
ヴィトルト・シャブウォフスキ 著
芝田文乃 訳 白水社
出版社HP
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独裁者たちは歴史の重要な瞬間に何を食べていたのか? 彼らの食べたものは政治に影響を与えたのか? 料理人は歴史に何らかの役割を果たしたのか?
こうした問いに答えを出すため、ポーランド人の著者は独裁者に仕えた料理人を探して、4年間で4つの大陸を旅した。本書に登場する独裁者は、サダム・フセイン(イラク)、イディ・アミン(ウガンダ)、エンヴェル・ホッジャ(アルバニア)、フィデル・カストロ(キューバ)、ポル・ポト(カンボジア)の5人。
まず本物の料理人を見つけ出すのに長い時間がかかった。ようやく見つかっても、インタビューに応じてくれるよう説得するまでに、さらに時間がかかった。それから各人に2週間にわたって1日に4、5時間ずつ話を聞いた。そのうち読者にとっていちばん興味深いと思われる部分、エッセンスだけを抜き出して、数十頁ずつにまとめたのが本書である。
なにしろ取材先の言語がばらばらなので、人を探すにも、会話をするにも、現地の言葉と事情を知る通訳ガイドの存在が欠かせない。幸い執筆前に英訳の版権が売れたことで取材費がやりくりできた。だから本書は著者と料理人だけでなく、多くの通訳・翻訳者との共作と言えるだろう。
※ 通訳翻訳ジャーナル2023年夏号より転載
ポーランド語翻訳者。訳書にシャブウォフスキ『踊る熊たち』(白水社)、ムロージェク『所長』『鰐の涙』(未知谷)、グラビンスキ『動きの悪魔』『狂気の巡礼』『火の書』『不気味な物語』、レム『地球の平和』、共訳書にレム『高い城・文学エッセイ』『短編ベスト10』『火星からの来訪者』、コワコフスキ『ライロニア国物語』(以上、国書刊行会)など。