新刊翻訳書を、訳を手がけた翻訳者の方(もしくは出版社の担当編集者の方)がみずから紹介。書籍の読みどころを語ります。
『人はなぜ物を欲しがるのか 私たちを支配する「所有」という概念』
ブルース・フッド 著
小浜 杳 訳 白揚社
出版社HP
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物があふれる現代、つい必要もない物を買ってしまったり、次々と大人買いしたり……。でも、物を所有することで、私たちは幸せになっているのでしょうか?
本書は、気鋭の発達心理学者ブルース・フッドが「所有」という概念を軸に、人間の心理と社会のあり方を読み解く異色の論考です。
「現代人は所有に取り憑かれている」と断言する著者は、なぜ人はやむにやまれず物を持つのか、その理由を理解すればより良い人生を送れるはずだと考え、一筋縄ではいかない所有の世界に踏み込んでいきます。
生物学、心理学、行動経済学など数々の分野の知見を駆使し、さまざまな角度から「所有」に斬り込んでいく各章は、圧巻の一言。話題の面白さと理論の精緻さが絶妙なバランスで相乗効果を生みだしています。
遺体の所有権問題、見せびらかすための所有、所有物とアイデンティティ、さらには物を手放す恐怖など多彩なエピソードを交えながら、私たちを翻弄する「所有」の正体を探る一冊。思いがけない論理の展開を楽しめる本書を、小浜杳さんのすばらしい翻訳でぜひご一読ください。
(白揚社 編集部・阿部明子)
※ 通訳翻訳ジャーナル2023年春号より転載