
新刊翻訳書を、訳を手がけた翻訳者の方が紹介! 書籍の読みどころを語っていただきます。
ノーベル賞学者が老化の謎に迫るノンフィクション

『Why We Die(ホワイ・ウィ・ダイ) 老化と不死の謎に迫る』
ヴェンカトラマン・ラマクリシュナン 著
土方奈美 訳 日本経済新聞出版
(2025年1月25日発売)
出版社HP Amazon
【訳者が語る】
不老長寿は有史以来の人類の夢ですが、最近はシリコンバレーの若き大富豪からの巨額の資金が流れ込み、研究が盛り上がっています。「人生100年時代」が人口に膾炙し、ヒトの最大寿命が120歳を突破するのも時間の問題と言われます。
本書はそんな風潮に一石を投じるもの。著者は生物学者でノーベル化学賞受賞者のヴェンカトラマン・ラマクリシュナンです。結論をひと言で言えば、私たちの体は精巧なシステムで、アンチエイジングサプリで簡単にチートできるものではありません、ということ。老化というプロセスが分子レベル、細胞レベルでいかに容赦なく進んでいくかを描いたうえで、こう問いかけます「たとえ不老長寿が手に入るとしても、それは本当に手に入れるべきものなのか」と。
訳者として一番魅力を感じたのが、齢70歳を超える著者が多くの専門家に話を聞きにいったり論文を読み込んだりと、頭と足を使って地道に真実に迫ろうとする姿です(参考文献の量が翻訳者泣かせ)。
怪しげなアンチエイジング・スタートアップの取締役やアドバイザーに名を連ね、お墨付きを与えている高名な学者たちに、科学者の矜持を示すのが著者の最大の目的だったのかもしれません。
※ 通訳翻訳ジャーナル2025 SPRINGより転載
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ひじかた・なみ/翻訳家。日本経済新聞社で記者を務めたのち独立。モントレー国際大学院(翻訳専攻)およびアメリカン大学ジャーナリズムスクールにて修士号取得。米国公認会計士、ファイナンシャル・プランナー。『ビジョナリー・カンパニーZERO』(日経BP)、『レオナルド・ダ・ヴィンチ』(文藝春秋)など訳書多数。