新刊翻訳書を、訳を手がけた翻訳者の方が紹介! 書籍の読みどころを語っていただきます。
もがきながら自分の道を見つける ふたりの女性のラブストーリー
『イエルバブエナ』
ニナ・ラクール 著
吉田育未 訳 オークラ出版
(2023年12月20日発売)
出版社HP
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【訳者が語る】
『イエルバブエナ』を翻訳していたとき、わたしはパートナーの病気療養のため、カナダのアルバータ州に住んでいました。幼い子供たちとパートナーの世話をしながら慣れない土地で暮らす日々は、心が沈むことが多かったのですが、本作品を訳しているうちに自然と、光や色、匂いや触覚に注意を払うようになりました。
ラズベリーの赤い実がぷっくりと膨らんでいる。その茂みのそばを走るリスを追うと、薄っすらとした太陽が目に入る。本作の舞台、カリフォルニア州の太陽はどんな感じなんだろうと目を閉じて想像すると、日常の苦しさが軽くなるような気がしました。
過去のトラウマや、現在の悩み、未来への不安に押しつぶされそうなときは、誰にでもあると思います。本作の主人公エミリーとサラも、倒れないようになんとか踏ん張っています。
この物語は、心が重いときに外側に気持ちを向けることの大切さを教えてくれます。カクテル、コーヒー、ふわふわのソファ、こもれび、土の匂い。うずくまってしまいそうなとき、少しだけカーテンを開ける、お湯を沸かす、本のページをめくる。そんなきっかけになる『イエルバブエナ(良い薬草)』のような小説です。
※ 通訳翻訳ジャーナル2024年SPRINGより転載
よしだ・いくみ/佐賀県出身。トロントに長らく住んだのち、2020 年パートナーの転勤で東京に引っ越す。どうしても日本語で紹介したい本があり、実現方法を模索。持ち込みが成功し、2021 年に初の訳書 エマ・ドナヒュー著『星のせいにして』(河出書房新社)刊行。現在は香港に住み、広東語を学習中。どこにいても学び続け、訳し続けたい。