新刊翻訳書を、訳を手がけた翻訳者の方がみずから紹介。書籍の読みどころを、訳者ならではの視点で語ります。
『ひとりだから楽しい仕事 日本と韓国、ふたつの言語を生きる翻訳家の生活』
クォン・ナミ 著
藤田麗子 訳 平凡社
出版社HP
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韓国の小説やエッセイが日本で次々と翻訳出版され、K-POPに続いて “K文学” への注目度がぐんと高まった昨今。一方、韓国では今から20 年近く前に日本文学の大ブームが巻き起こり、ベストセラーランキングに占める日本小説の割合が国内作品をはるかに上回った年もありました。
『ひとりだから楽しい仕事』は、そんな日本文学ブームを支えた韓国の人気翻訳家クォン・ナミさんが仕事や日々の暮らしをつづる、笑いあり涙ありちょっぴり毒ありの痛快エッセイ集です。
村上春樹『パン屋再襲撃』、小川糸『食堂かたつむり』、恩田陸『夜のピクニック』、群ようこ『かもめ食堂』、益田ミリ『僕の姉ちゃん』、角田光代『紙の月』、三浦しをん『舟を編む』ほか、30 年にわたるキャリアの中で300 冊以上を翻訳。「この仕事を愛さなかった日は一日もない」という彼女は、ほぼ年中無休で翻訳に取り組み、ピーク時には一年に15冊を手がけたこともあると明かします。
ほかにも、駆け出し時代の苦労話やギャラ交渉の難しさ、韓国ドラマに登場した翻訳家のありえない設定に対するツッコミをはじめ、小川糸さんとの出会いと小説のような偶然のできごと、思わぬ誤訳や訳注へのこだわり……などなど、興味深いエピソードが盛りだくさんの一冊です!
※ 通訳翻訳ジャーナル2023年春号より転載
翻訳家&ライター。1977年福岡県生まれ。中央大学文学部社会学科卒業。主な訳書にチョン・ドオン『こころの葛藤はすべて私の味方だ。「本当の自分」を見つけて癒すフロイトの教え』、クルベウ『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』(以上、ダイヤモンド社)、ハン・ソルヒ『あたしだけ何も起こらない “その年”になったあなたに捧げる日常共感書』(キネマ旬報社)など。