通訳者・翻訳者の本棚を拝見し、読書遍歴について聞くインタビューを特別掲載!
第一線で活躍するあの人はどんな本を読み、どんな本に影響を受けたのか。本棚をのぞいて、じっくりとお話を伺います。
目が見える限り、
ずっと本を読んでいたい
ドイツ文学者・翻訳家。早稲田大学文学学術院文化構想学部教授。翻訳家。B・シュリンク『朗読者』で第54回毎日出版文化賞特別賞受賞。『階段を降りる女』『逃げてゆく愛』(以上、新潮クレスト・ブックス)、『マルテの手記』(光文社古典新訳文庫)、『三十歳』(岩波文庫)など訳書多数。著書に『誤解でございます』(清流出版)など。日本翻訳大賞選考委員。
蔵書の傾向は、ドイツ文学と「越境」
早稲田大学の研究室のドアを開けると、タテに長い室内の向かって右側にずらりと書棚が並ぶ。まず目を引くのが、入口そばの書棚の一段を占拠した絵本たち。そのとなりに目を移すと、少数ながらマンガの派手な背表紙がにぎやかだ。
ドイツ文学者にして翻訳家である松永さんの研究室に「なぜ?」と思いきや、絵本もマンガもれっきとした授業のテキストだという。
「翻訳演習の授業ではドイツ語と英語の未訳の絵本を訳していて、出版までにはまだ至っていませんが、出版社に持ち込みもしています。マンガはまだ第二文学部があった頃に、文学とジェンダー論という授業で取り上げました。『LOVe』とか『YAWARA!』など、女子が主人公のスポ根モノや戦う女の子系のマンガです」
研究室の書棚は全部で8本。3000冊弱の蔵書は、現代ドイツ文学、人の移動、翻訳論、比較文学など、研究テーマごとに分類されている。
「『人の移動』というのは、要するに国境を超えることです。そのことがどう文化や文学に影響するのかに興味があるので、ドイツに暮らす多和田葉子さんや、海外から日本に来られたリービ英雄さんや楊逸さんなど、母国を離れ、母語以外の言語で書く作家さんの本も結構あります」
「所属が文化構想学部に変わってからは日本人作家も授業で取り上げるようになり、書評の仕事もしているので、日本人作家の本も増えてきました。今期は『翻訳する作家』をテーマにした授業があるので、村上春樹さんや小野正嗣さん、堀江敏幸さんなどの本があります。冊数がいちばん多いのは、やはり多和田さん。日本語版もドイツ語版もすべて揃っていて、授業でも繰り返し取り上げています」
今回は研究室を訪問したが、さらに自宅には23本の書棚(約1万冊)があり、家全体が書庫状態。日本語とドイツ語にわけ、日本語は作家名五十音順に整理しているが、買ったりもらったりして冊数が増えるなか、「あ行がいつも溢れている」と笑う。
※ 『通訳翻訳ジャーナル』2020年冬号より転載 取材/金田修宏 撮影/合田昌史
Next→影響を受けた作家は