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2023.07.31 UP

出版翻訳家 久山葉子さん
「プロになるために必要なものとは」

出版翻訳家 久山葉子さん<br>「プロになるために必要なものとは」
※『通訳者・翻訳者になる本2023』より転載。

スウェーデンの
価値観や生活が伝わるようなミステリを
翻訳して紹介したい

これまでの訳書は全25冊(21年11月時点)。そのうち20冊以上は持ち込みで、ミステリはほぼすべて、地元の書店で目利きした作品だ。

「私にとって北欧ミステリは、北欧の考え方や価値観、生活を紹介する媒体みたいなもの。本格ミステリというより、主人公が謎解きの合間に保育園にお迎えに行くとか、そういう描写のある作品を選ぶことが多いです」

スンツヴァル
住んでいる街はスンツヴァルという首都から400kmほど離れた地方都市。毎年秋にはスウェーデン・ミステリ・フェスティバルが開催され、多くの作家やミステリファンが集まる。

9年前の“持ち込み”が
奏功した『スマホ脳』

大ベストセラーとなった『スマホ脳』は持ち込みではないが、ある意味ではそう言えなくもない。デビュー作となるノンフィクションのレジュメを送った先の一つが、同書の版元である新潮社。そのときは返信がなかったが、9年が過ぎて突然、連絡が来た。

「こういう本があるけれど、リーディングをお願いできないかと。版権担当の方が、私のことを覚えてくれていたみたいで」

締切の関係により、版権取得後に改めて翻訳を依頼されると、下訳を使うことを条件に受諾。信頼できるスウェーデン語翻訳者に1カ月で一次訳をつくってもらうと、2週間で訳文を仕上げた。

「11月に発売されると、毎週のように増刷になって、それはもうお祭り騒ぎのようでした(笑)」

その一方で、苦い経験をしたこともある。大手取次が倒産したあおりを受け、出版予定だった翻訳書の刊行が中止になったばかりか、訳了していたのに違約金が支払われなかった。結果的には、5年を要して別の版元から出版され、労力は報われたが、だからといって「なかったこと」にはしたくない。

「翻訳者の権利を守るためにも、こういう体質は改めなければと思います。志望者の方たちも、こうした現実があることを知っておいてほしい。フリーランスは、自分で自分を守るしかないので」

翻訳作業をしている仕事場
いつも翻訳作業をしている仕事場。高さが調節できるデスクを使っており、健康のために作業時間の半分ほどは立って仕事をしている。お茶とLEDのろうそくは癒しに欠かせないグッズ。

※『通訳者・翻訳者になる本2023』より転載  取材/金田修宏 撮影/安部まゆみ

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久山葉子さん
久山葉子さんYoko Kuyama

1975年生まれ。神戸女学院大学文学部英文学科卒。2010年よりスウェーデン在住。著書に移住前後の顛末を描いた『スウェーデンの保育園に待機児童はいない』(東京創元社)。訳書に『許されざる者』(レイフ・GW・ペーション著)、『影のない四十日間』(オリヴィエ・トリュック著/以上 東京創元社)、『スマホ脳』『最強脳』(アンデシュ・ハンセン著/新潮社)、『メッセージ トーベ・ヤンソン自選短篇集』(トーベ・ヤンソン著)、『北欧式インテリア・スタイリングの法則』(共訳/フリーダ・ラムステッド著/以上 フィルムアート社)など。