
通訳・翻訳の初仕事を得る方法はさまざまあるが、未経験者でもデビューの可能性が開けるのが「コンテスト」だ。特に、志望者が多く狭き門である出版翻訳においては、コンテストやオーディションからデビューを叶えた人も多い。コンテストがきっかけでデビューしたり、仕事が増えたりといった経験をした通訳者・翻訳者のリアルな声を紹介する。

やまだ・さおり/2020年に結婚を機に韓国へ移住。SNSで翻訳コンテストの告知を目にし、挑戦を決意。その後、コンテスト受賞をきっかけにウェブトゥーン翻訳の仕事をスタート。ウェブトゥーン翻訳以外にも、映像字幕翻訳や韓国コスメのWebサイト翻訳、韓国の市町村SNS翻訳の実績あり。
●受賞したコンテストと結果
新韓流文化コンテンツ翻訳コンテスト
第1回 ウェブトゥーン翻訳 日本語部門大賞
文化体育観光部長官賞
●主な翻訳の分野
ウェブトゥーン翻訳
●翻訳者歴
4年(インタビュー時)
他の応募作と違う印象を与えるため、訳文に個性を出した
結婚を機に韓国へ移住した山田早織さん。学生時代に韓国語学習を開始し、2度の韓国留学を経験した。
「韓国移住後にSNSで『新韓流文化コンテンツ翻訳コンテスト』の告知を目にしました。それまで翻訳の経験はなかったものの、『ウェブトゥーン部門なら楽しく翻訳に取り組めるかもしれない』と思い、挑戦することにしました。当時はコロナ大流行中で、外出もかなり制限されたような状態だったので、在宅で参加できるというところも魅力でした」
初開催(2020年)だった同コンテストのウェブトゥーン部門で、山田さんは「日本語部門大賞」と「文化体育観光部長官賞」をダブル受賞。もともと漫画やアニメが好きだったことが、翻訳において大きくプラスになった。
「ただ訳すだけでなく、『読者が自然に読み進められる翻訳』を意識しました。コンテスト参加前から日本語に訳された韓国ウェブトゥーンを読むことがあったのですが、読みながら『不自然な日本語だな』『まどろっこしい言い回しだな』と感じ、作品そのものに集中できないことがありました。そのため読者の集中力を削ぐような不自然な言い回しにならないよう、特に注意しました」
また、コンテストならではの特徴も考えて翻訳をした。
「コンテストの審査員は、短時間で何人もの参加者の訳文を見ることになります。最初のつかみで審査員の関心を引くことが大切だと思ったので、課題のはじめの部分の訳文には個性を出して、他の参加者とまったく違う印象を与えられるよう心がけました。ただ、個性を出した訳を意識しすぎると、原文から遠ざかってしまうこともあります。あくまでも『作品の世界観を壊さない』範囲で訳出するよう、バランスにも注意しました」
受賞後すぐに翻訳者デビュー
Webサイトで、山田さんのコンテスト提出作品をみた韓国のウェブトゥーン企業から声がかかり、受賞後すぐに翻訳者として仕事をスタートした。本来であればトライアルを経て契約の流れだったが、コンテストの成績が優秀だったためトライアルを免除された。また、韓国コスメのWebサイト翻訳や市町村SNS翻訳の依頼主からも、コンテスト主催団体経由で問い合わせがあったという。
「ウェブトゥーン翻訳だけでなく、Webサイト翻訳や映像翻訳の仕事もコンテストがきっかけで始めるようになり、反響の大きさを実感しました」
現在は韓国のウェブトゥーン企業2社と契約を結び、9作品の翻訳を担当するほか、日本の出版社で漫画編集者の仕事もしている。
「翻訳者として働くうちに『漫画をゼロから作ってみたい』と思うようになりました。コンテストに出ていなければ、漫画編集者として働くこともなかったと思うと、コンテストで人生が変わったなと感じています。自分の翻訳した作品が、漫画配信サイト内の人気ランキングで上位にランクインしているとうれしいですし、SNSなどで自分が翻訳した台詞を『キュンとした』『おもしろかった』と評価する投稿をみると、悩みに悩んだ甲斐があったな、と思えます。作品のおもしろさを損なうことなく日本の読者に伝えられたと実感した時が、一番やりがいを感じます」
コンテストへの応募を考えている人へ📣
私の場合、翻訳に携わった作品を口外することができなかったので、コンテストでの受賞歴は仕事を獲得していく上で大きなプラスになりました。自身の「翻訳能力」「翻訳センス」を客観的に証明するためにも、応募できるコンテストがあれば、ぜひ積極的に挑戦していただきたいと思います。
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