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通訳者・翻訳者のプロになるためには、通訳・翻訳の専門スクールで学んで、スキルを磨くのが一般的ですが、海外で通訳・翻訳を学ぶという選択肢もあります。そんな道を選んだ先輩へのインタビューを紹介します。
韓国のソウル外国語大学校通訳翻訳大学院で学び、現在は韓日翻訳者としてウェブトゥーンやゲームの翻訳を主に手掛けている鳩間崇さんに、通訳翻訳大学校の入学試験、カリキュラム、授業の様子・雰囲気や、留学を通して学んだことについて語っていただきました。
2016年にソウル外国語大学院大学校通訳翻訳大学院、韓日翻訳科修士過程修了。韓日翻訳者。在学中にスマホアプリ/ウェブサイト/契約書などの翻訳、そして企業視察などの通訳を経験。2017年に日本へ帰国し、人材派遣や医療事務に2年ほど従事。2020年に退職後、ウェブトゥーン(韓国発の縦スクロール漫画)の翻訳に携わるようになり、翌年の2021年からはゲーム翻訳も手がける。
ソウルの大学で翻訳を学び、プロの韓日翻訳者に
同期たちはよきライバル
通訳・翻訳に全力投球できた貴重な2年間
現在、ウェブトゥーン(韓国発の縦スクロール漫画)やゲームの翻訳を中心に活躍する、韓日翻訳者の鳩間崇さん。関西出身で、大学時代から韓国語の勉強を始め、大学卒業後は韓国語の通訳者をめざして大阪の通訳スクールに通っていましたが、そちらが廃校になったことを機に、韓国の通訳翻訳大学院への進学を決意したそうです。
受験勉強を経て2014年にソウル外国語大学校通訳翻訳大学院に入学し、2年間の韓日翻訳科修士過程を修了しました。
ソウル外国語大学校通訳翻訳大学院での学びについて、Q&A形式で答えていただきました!
Q. 入学するために必要な試験・資格は? また、入学試験の内容は?
現在、ソウル外国語大学校通訳翻訳大学院への出願には以下のような書類が必要です。詳細はホームページの出願書類をご確認ください。(https://www.sufs.ac.kr:11048/sufs/admission/admission.asp)
・入学願書、入試管理台帳
・大学卒業(見込み)証明書
・大学成績明書
※外国籍を有する者
・パスポート写し(国籍証明書など)
・TOPOIK成績表
また、入学試験は「一般選考」と「特別選考」に分けられ、日本で教育を受けられた方は「特別選考」に該当します。特別選考の場合、試験スケジュールは【書類審査→翻訳試験→口述試験】となります(詳細はHPをご参照ください https://www.sufs.ac.kr:11048/sufsjap/entrance/entrance_01.asp)。
私が受験した当時の口述試験は、サイトトランスレーション(韓⇔日)と、志望動機や時事問題を尋ねられる面接という内容でした。
Q. 進学に向けた勉強は、どのように&どのくらいの期間行った?
受験勉強のために上京して、半年ほど都内で知人の韓国人の家に居候しながら、過去問を解いたり、ニュースやドキュメンタリーを訳したり、ノートテイキングの練習をしたりしていました。また同時に、東京の通訳スクールに通っていました。
私は日本の通訳スクール+独学というスタイルでしたが、韓国には通訳翻訳大学院をめざす人向けに専門の予備校があり、そちらに通って対策しながら準備をするというのが一般的なようです。現在はオンラインでも受講できるそうです。
Q. 大学院のカリキュラム&授業の内容は?
同校の通訳翻訳大学院の課程は2年間で、1年目は通訳と翻訳の両方を履修し、2年目からは、どちらかに比重をおいた授業を履修できます。通訳志望の学生は翻訳の授業を減らし、同時通訳などのより専門的な授業を増やすといった感じです。英韓・中韓・日韓の3学科があり、その3学科の学生全員が同時に受講する講義もあったりするので、いま振り返ると他学科と交流ができる良い機会でした。
卒業するためには試験に合格する必要があり、通訳過程での修了希望者は「同時通訳」と「逐次通訳」の試験を、翻訳過程での修了希望者は書籍を翻訳します。ちなみに私は書籍を翻訳して審査に通過し、翻訳過程を終了しました。
通訳の授業では、1年目にサイトトランスレーションや短い逐次通訳などの基礎的なトレーニングを積み、2年目になるとブースに入って同時通訳の授業がはじまります。
翻訳においては、実際の案件の類似文などを課題として訳し、授業で教授から添削を受けるなど、実務的な契約書の訳し方などを学びました。
Q. 同学科の学生やキャンパスの雰囲気は?
同期は社会人経験者が8割ほどで、そのうち韓国語ネイティブが9割、日本語ネイティブが1割ほどでした。ちなみに男性は他学科も含めてもほとんどいませんでした。
韓国語ネイティブの同期は、もともと日本語専攻者が多く、社会人になってから通翻訳の技術を学んでレベルアップしたいという人が多かったです。日本語ネイティブの場合も基本的に同じでしたが、日本の大学や韓国の語学堂(※)を卒業して、すぐに入学してきた優秀な同期もいました。年代は全体的に20代後半~30代が多かったですが、40代の方もいらっしゃいました。
学科では皆がライバルといった感じで、課題と試験に明け暮れる毎日でした。長期休みも、いかに実力を伸ばすかという戦いです。しかし、たまには程よくお酒も飲みながら、和気あいあいと楽しむこともありました。
毎日とにかく、校内のスタディールームやカフェで勉強会をしていました。今でも覚えているのが、入学式に教授が、「今日から皆さん、1日25時間勉強してください」と言っていたことです。そのくらい勉強漬けの毎日でした。
※語学堂:韓国の国公立または私立大学が運営する、留学生向けの語学学校。
Q.同大学院で学んで良かったこと、また現地での思い出は?
比較的、教授陣との壁や厳しい上下関係がなく、在学中でも教授から仕事を紹介していただけることが多かったです。
私自身も在学中に2~3社のエージェントに登録して、案件を度々こなしていました。また、今でも先輩・後輩と連絡を取り合うなど、卒業生のネットワークができたのは強みかもしれません。
一番の思い出は、課外授業で実際の通訳現場に行き、教授の同時通訳を直接聴いたことです。人間業ではないと非常に衝撃を受けて、プロに対する畏敬の念を抱くきっかけになりました。
韓国の大学院で通訳・翻訳を学びたい人へのAdvice!
通訳翻訳大学院での2年間は、自分の限界に挑戦し続けることができる貴重な時間だと思います。やり切る覚悟で挑戦すれば、いつかチャンスは巡ってきます。具体的なことを挙げればキリがありませんが、大学院で学んだことは今の仕事の土台になっています。あの時に培われたであろう、度胸と粘り強さは一生消えないでしょう。
入学してから卒業するまで成績も低く劣等生だった私は、卒業してからすぐに新しいステージに進んで華々しい社会生活を送る同期たちの姿を横目に、韓国での生活と通訳の道を一度あきらめ日本に帰国しました。それから地元の一般企業で働いていましたが、偶然に紹介いただいたウェブトゥーンのトライアルに合格することができて今に至ります。
卒業してからも、ずっと忘れられない先輩の言葉があります。「今学んでいることは、今後の人生で必ず生きる」。卒業してから5年、今まさにこの言葉を実感しています。
ソウル外国語大学校通訳翻訳大学院
2003年に開校。韓英通訳翻訳学科、韓中通訳翻訳学科、韓日通訳翻訳学科という3つの学科があり、さらに各学科で国際会議通訳、逐次通訳・翻訳、翻訳の3つの専攻に分かれる。
入学試験・募集要項は大学のホームページを参照のこと。
HP:http://www.sufs.ac.kr/sufsjap/info/info_01.asp
※ 本記事中の情報は2023年10月時点のものです。