2024.04.04 UP
出版翻訳家 千葉敏生さん
~Interview with a Professional~
訳していて『自分にまわってきたよかった』と
思える本だと、本当にうれしい
日光浴をしながら
スマホで翻訳することも
実務翻訳で生計を立て、出版翻訳の仕事が入ったら実務のほうを少し控える。そんな二足のわらじをしばらく続け、出版の仕事が途絶えなくなったら6年前から、出版専業にした。「営業力がまったくない(笑)」と認めるように、持ち込みをしたことも、業界関係者の集まりに顔を出したこともない。それでも「編集者の○○さんに紹介してもらいました」「訳書を読みました」などと仕事の打診は続き、選り好みせずに引き受けてきた。地道に積み上げた冊数は40冊を超える。
(2019年当時)
1日あたりの翻訳ノルマはもちろん、原書とのつき合わせや推敲の日数も決め、きっちり全体の計画を立ててから仕事に取りかかる。納期が3カ月なら、1カ月半で翻訳し、1カ月かけてていねいに原書とつき合わせて誤訳や抜けがないかを確認。残りの半月で、訳文だけをじっくり推敲する。翻訳する際には、原文テキストを翻訳ソフトに取り込み、訳振り機能を使って単語の下に訳語をルビのように表示させ、これを見ながら訳していく。
「パッと見ただけで、そのページに何が書かれてあるかが大体わかります。大ざっぱでも全体がわかっていると訳しやすく、この方法を始めてから翻訳のスピードがすごく上がりました」
辞書は電子辞書をメインに、「英辞郎on the Web Pro」とオンラインの英英辞書を使用。原文を理解するのに背景知識が必要な場合は原則、「その分野の本を買ってきて読みまくる」。
どちらかというと夜型で、起床は午前11時ごろ。起きたらすぐ仕事を始める。冬場を除き、天気がよければ週に1回は気分転換を兼ねて公園へ。日光浴をしながら、スマホで原文を読み、スマホで訳文を打つ。
「外でいろんな刺激を受けたほうが、頭がよく働くんじゃないかと思って(笑)。台詞まわしとか、クリエイティビティが必要な翻訳を外でやるようにしています」
※『通訳者・翻訳者になる本2020』より転載 取材/金田修宏 撮影/合田昌史 取材協力/フェロー・アカデミー
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自分が楽しめるか
1979年、神奈川県生まれ。早稲田大学理工学部数理科学科卒。大学卒業後、フェロー・アカデミーで翻訳を学び、2006 年にフリーランス翻訳者として独立。『僕たちはまだ、インフレのことを何も知らない デフレしか経験していない人のための物価上昇2000年史』、『半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』(以上、ダイヤモンド社)、『見えない未来を変える「いま」――〈長期主義〉倫理学のフレームワーク〉』(みすず書房)、『スタンフォード式 人生デザイン講座 仕事篇』(早川書房)など訳書多数。