• 翻訳

2023.05.25 UP

第7回 いまだからこそ始めたい多言語学習とその魅力

第7回 いまだからこそ始めたい多言語学習とその魅力

英語のみならず、独語、仏語、西語、伊語、中国語を独学で身につけ、多言語での読書を楽しんでいるという作家・翻訳家の宮崎伸治さんに、多言語学習の魅力を余すところなく語っていただきます!

多言語学習をすれば人生が豊かになる

多言語学習に旨みはあるのか?

気軽に「多言語を学習しましょう」といっても、現実は「言うは易し、行なうは難し」ですよね。ちょっと興味が湧いたからといって学習を始めても、どんな旨みがあるのか実感できなければ、やがて投げ出してしまいたくなるのがオチでしょう。実際、そういう人をごまんと見てきましたし、私自身、何度も挫折した経験があるので、いかに多言語学習を続けることが難しいことか痛感しています。だからこそ私は声を大にしてでも多言語学習の旨みをお伝えしたいのです。

では、ここで私なりに考える多言語学習の旨みをお話ししたいと思います。この旨みを知った上で学習を始めれば、続けられるか否かの点で雲泥の差が出ると思います。

私が一番に思いつくことは、多言語学習をすれば人生が豊かになるということです。私はそのことを食生活に喩えて次のように説明することがあります。

「あなたは日本料理だけしか食べられない人生と日本料理に加えてフランス料理やインド料理や中華料理など世界のさまざまな国の料理も堪能できる人生とどちらがいいですか。当然、後者ですよね。言語にしても同じことが言えるのです。日本語だけしかできない人は日本語で話されたり書かれたものしか楽しむことはできませんが、外国語ができれば外国語で話されたり書かれたりしたものも楽しむことができるのです。当然、後者のほうが人生の楽しみが増えますよね」



では、具体的にどんな楽しみが増えるでしょうか。海外旅行したときに現地の人と会話が楽しめる、いや、日本にいても外国人に声をかけられたら会話ができるといった楽しみもあるでしょう。しかし私が強調したいのは次の2点です。

1.原書が読めるようになる

まず、なんといっても原書が読めることになることが挙げられます。な~んだ、そんな当たり前のこと……と思う人もいるでしょうが、私はこのメリットは計り知れないと思っているのです。長年、出版翻訳の仕事をしてきましたので熟知しているつもりですが、翻訳書というのは「良い作品だから」という理由ではなく、「売れそうだから」という理由で翻訳出版されるものです。「良い作品であり、かつ、売れそうな作品でもある」という本がたくさんあればそれが理想的でしょうが、現実はそうではありません。実際、「良い作品」でも売れそうにない作品はたくさんありますし、そのような「良い作品」は翻訳されないままになっているのです。しかし原書が読めるようになれば、そのような「良い作品」もダイレクトに読めるのです。もしそうなれば…。もうお分かりですよね。楽しみがグンと広がるのです。

2.海外の洋画・動画が視聴できるようになる

「原書が読めるようになったら…と言われても、私、そもそも日本語でも本を読まないし」という方もおられると思いますが、待ってください。原書を読むという楽しみと同じくらい、いや、それ以上に楽しめるのが海外の洋画・動画の視聴です。IT革命のおかげで、驚くことが起きています。インターネットに繋がってさえいれば、いまや世界中の様々な言語で洋画・動画が視聴できるようになっています。ちなみに私はNetflixを利用していますが、月額990円(本稿執筆時点)で見放題です。またYouTubeでも無料で視聴できる海外の動画は数限りなくあります。多言語ができればこれが思う存分楽しめるのです。

しかし私がこう説明するとこういって反発する人もいるでしょう。

「食生活と言語学習は別だ。外国語が理解できるようになるには多大な時間と労力が必要だが、そこまで努力して外国語ができるようになりたいとは思わない。第一、翻訳本もあるし、洋画は字幕も吹替もある。外国語ができなくても外国語の作品は堪能できる」

まあ、たしかに食生活と言語学習は別ですね。例えばイタリア料理が食べたいと思ったら、お金さえ払えば、おいしいイタリア料理が食べられますが、イタリア語の原書が読めるようになるには、それ相当の努力が要ります。そしてその努力というのがハンパないことは容易に想像できるでしょう。そんな努力をしなければならないのなら、翻訳本で読めれば十分、と思うのも無理はありません。

では、原書が読めるようになるとか、海外の洋画・動画が視聴できるようになるといった2点以外に多言語を学習するメリットはないでしょうか。「よし、それなら私も頑張って多言語学習をしよう」とさせてくれるものはないでしょうか。次回はそれについて探ってみたいと思います。

★次へ続く

作家・翻訳家 宮崎伸治
作家・翻訳家 宮崎伸治Shinji Miyazaki

著書に『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』(三五館シンシャ)などがある。ひろゆき氏など多くのコメンテーターに対して翻訳業界の現状を語る番組に出演した際の動画が無料で視聴できる。https://abema.tv/video/episode/89-66_s99_p3575(ABEMA TV)。また「大竹まことのゴールデンラジオ」に出演したときのようすが、次のリンク先のページの「再生」ボタンを押すことで無料で聴くことができる。http://www.joqr.co.jp/blog/main/2021/03/110.html