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2023.05.24 UP

第3回 語族・語派・語群とは何か?その違いを簡単に解説しよう

第3回 語族・語派・語群とは何か?その違いを簡単に解説しよう

英語のみならず、独語、仏語、西語、伊語、中国語を独学で身につけ、多言語での読書を楽しんでいるという作家・翻訳家の宮崎伸治さんに、多言語学習の魅力を余すところなく語っていただきます!

語族・語派・語群の違いと関係性

言語は枝分かれして派生する

前回、世界には千数百から数千の言語があるということをお話ししました。また、外国語学習における「食わず嫌い」はもったいないというお話しもしました。

(それはわかったけれど、では、何語を勉強したらいいの?)

とお訊きになる方もいらっしゃると思いますが、その前に、まず世界にはどんな言語があるかをざっと見ていきましょう。
といいましても、千数百から数千もある言語を一つひとつ見ていくことは不可能ですので、さまざまな切り口からざっと見ていくことにします。

私たち日本人は「外国語」というと、とかく「まったく異なる言語体系を持つ言語であり、習得するのは困難」と思いがちですが、それもそのはず、日本語は非常にユニークな言語なのです。

どうユニークかといいますと、日本語というのは「類似する言語を持たない言語」といえるのです。人間関係に喩えていえば、他の多くの言語が「家族」だの「親戚」だのを持っているのに対し、日本語だけは「家族」も「親戚」も持たない「一匹狼」です(ただし、これは琉球語を日本語の方言と考えた場合の話です。言語学者によっては日本語と琉球語を別々の言語と考える人もいます)。

では、世界にはどんな言語の家族(これを「語族」といいます)があるのでしょうか。
構成する言語数の多い順に「語族」をベスト10まで挙げれば、次のようになります(情報はWikipediaより)。

1位 ニジェール・コンゴ語族(1538言語)
2位 オーストロネシア語族(1257言語)
3位 トランス・ニューギニア語族(480言語)
4位 シナ・チベット語族(457言語)
5位 インド・ヨーロッパ語族(444言語)
6位 オーストラリア語族(378言語)
7位 アフロ・アジア語族(375言語)
8位 ナイル・サハラ語族(205言語)
9位 オト・マンゲ語族(177言語)
10位 オーストロアジア語族(169言語)

このランキングからも分かるとおり、構成する言語の多い語族はたくさんあります。なんと1000言語以上の語族もあるのですから驚きですね。

そして、語族・語派別に世界地図を色分けすれば、次の図のようになります。日本語が「一匹狼」的な言語であることはこれからも分かりますね(wikipediaより引用)。

CC 表示-継承 3.0, リンク

同じ1組の夫婦から多くの子供が生まれ、その子供たちからまた多くの子供が生まれ…を繰り返していくと、もともとは1組の夫婦だったものが等比数列的に増えますが、語族も同じように、最初は1つの言語だったものが時の経過とともに枝分かれしていき、多くの語派を形成しているのです。

人間関係においても血がつながった者同士は似通っていますが、言語にも同じことが言え、同じ語族に含まれる多くの言語はもともと同じ1つの言語から派生したもの同士ですのでお互い似通っているのです。

メジャーな西欧言語はみな「兄弟」か「いとこ」

日本語は語源的に似通った言語を持たないユニークな言語と言いましたが、では、私たちが子供の頃から学んできた英語はどうでしょうか。何語族に属すのでしょうか。

答えは、インド・ヨーロッパ語族です。そして面白いことに、日本人にとって人気の高い外国語であるドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語、ロシア語はすべてこのインド・ヨーロッパ語族に属しています。

さらに詳しく見ていきますと、英語、ドイツ語、オランダ語などはインド・ヨーロッパ語族の中のゲルマン語派に属します。同じ語派同士を比較してみると、単語もかなり似ています。「まるで兄弟のように似ている」と喩えてもいいように思います。

一方、フランス語、イタリア語、スペイン語は、同じインド・ヨーロッパ語族に属するといっても、その中のイタリック語派に属します。フランス語、イタリア語、スペイン語同士は同じイタリック語派ですから“兄弟”のようなものですが、イタリック語派とゲルマン語派とを比較すると、似ていることは似ていますが、“兄弟”ほど似ていないので、喩えるとすれば、“いとこ”といったところでしょうか。

語族・語派・語群の関係を簡単に図にすれば次のようになります。語族の下に語派があり、語派の下に語群があります(ただしこれは日本での分類のしかたです)。


今回は、世界に数千もあると言われている言語も、すべてがまったく似ても似つかないというわけではなく、今でこそ“外国語”同士である複数の言語もその多くは元々同じ1つの言語だったものが時間の経過とともに枝分かれしたものであることをお話ししました。

次回はまた別の切り口から世界の言語を深掘りしていきましょう。

★前回のコラム

作家・翻訳家 宮崎伸治
作家・翻訳家 宮崎伸治Shinji Miyazaki

著書に『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』(三五館シンシャ)などがある。ひろゆき氏など多くのコメンテーターに対して翻訳業界の現状を語る番組に出演した際の動画が無料で視聴できる。https://abema.tv/video/episode/89-66_s99_p3575(ABEMA TV)。また「大竹まことのゴールデンラジオ」に出演したときのようすが、次のリンク先のページの「再生」ボタンを押すことで無料で聴くことができる。http://www.joqr.co.jp/blog/main/2021/03/110.html