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2025.07.30 UP

第3回 Web3通訳デビュー! お仕事の獲得方法を徹底解説

第3回 Web3通訳デビュー! お仕事の獲得方法を徹底解説

Web3業界で日英通訳者として働く、大谷かなこさんによる連載!
「Web3ってなに?」「最近よく聞くけど、難しそう……」といった疑問に答え、いま需要が増えている、Web3業界での通訳のお仕事について解説していただきます。
通訳者だけではなく、「Web3」について知りたい翻訳者の方も必見です。

こんにちは!大谷かなこです。

毎年8月は、日本のWeb3業界にとって「大型カンファレンスシーズン」とも言える時期です。特に今年(2025年)は、8月末から9月にかけて国内外で複数の大型カンファレンスが集中して開催される予定です。

毎年カンファレンス開催にあわせて、世界中からWeb3業界の人たちが多く来日します。もちろん中にはWeb3業界をけん引するキーマンもいます。

特に注目すべきは、8月25日(月)〜26日(火)に開催される「WebX」です。アジア最大級のWeb3グローバルカンファレンスとして、世界中のプロジェクトや投資家、起業家が一堂に会します。また東京都知事の小池百合子氏の登壇が発表されました。

そのため8月はWeb3通訳に挑戦するチャンスがたくさんありますが、通訳の案件を獲得するには、自ら業界に入っていくことが必要です。

そこで今回は、以下のポイントについてご説明します。

1:大型カンファレンスで発生する通訳案件とは?
2:どうやって通訳のお仕事を獲得するのか?
3:事前準備&当日に気を付けることは?

大谷さん自己紹介

Web3業界の「繁忙期」に発生する通訳案件とは?

大型Web3カンファレンスの時期には、特に以下のような通訳案件が多く発生します。

✅ 通訳ニーズのあるシーン(例):
• 海外Web3プロジェクトとの商談
• Web3メディアのインタビュー通訳
• 会場内ブースでの案内・来場者対応
• サイドイベントでの受付やトークセッションの通訳

AIで対応しきれない「人の場面」での通訳ニーズが増加!

カンファレンス内でも終日多くのセッションが企画されますが、全体的にAI翻訳による字幕が導入されつつあります。その影響もあり、同時通訳者のニーズは徐々に減少傾向にあります。

一方で、商談やインタビューなど、人と人が直接対話する場面での通訳は依然として不可欠です。さらに、海外プロジェクトのブースでは「日本語で来場者対応できる人材」を求める声も多く聞かれます。

また大型カンファレンスでは、日本語と英語が話せる受付スタッフやイベントスタッフを募集することもあります。このような役職ではWeb3の専門知識よりも接客英語スキルが求められるため、Web3の知識に自信がない方はまずイベントスタッフからWeb3業界に挑戦することもおすすめです。

「サイドイベント」の通訳案件もチェック!

カンファレンス期間中には、本編とは別に各企業やプロジェクトが主催する「サイドイベント」が多数開催されます。1つの大型カンファレンスにつき、200〜300件のサイドイベントが同時並行で行われることもあります。

サイドイベントで企画されるトークセッションの登壇者の中には、海外の著名人やキーマンが含まれることも多く、セッション通訳の依頼が発生することも珍しくありません。

筆者は2025年7月に開催されたカンファレンス「IVS」のサイドイベント「IVC Summit」にて、セッション通訳を担当しました(右から2人目)。

いずれも1つのプロジェクトやジャンルのみに絞って予習ができるので、Web3通訳者デビュー案件としてはおすすめです!

どうやって通訳のお仕事を獲得するのか?

大型カンファレンスの開催時期には通訳者のニーズが高まりますが、残念ながら通訳エージェントや派遣会社を通じて案件を見つけることは難しいです。

なぜなら日本のWeb3業界は発展途上のため、「英語が話せる知り合いに依頼する」ケースが多いからです。だからこそ、Web3業界内に自らネットワークを築き「私は通訳ができます!」と直接アピールしていくことが何より重要です。

そのためにまず、Web3関連のイベントに積極的に参加することをおすすめします。Web3業界では毎週さまざまな場所でイベントが開催されていて、Web3プロジェクトの代表やCXOクラスが登壇者としてだけでなく「参加者」として参加しているケースも多いからです。業界内のネットワークを広げながら、Web3業界の最新トレンドも学ぶことができるので一石二鳥です!

※数年前までオフラインイベントは東京のみに集中していましたが、今年から大阪など地方開催のイベントも増えています。

それではどのように繋がりを増やしていくのか? ここからは私が実際に行ったアクションを以下2つのステップに分けてご説明します。

ステップ1:まずは「三種の神器」を用意する
ステップ2:Web3イベント情報を集める&参加する

ステップ1:まずは「三種の神器」を用意する

イベントに参加する前に、まずは次の3つを用意しましょう!
いずれもWeb3業界で繋がりを増やすだけではなく、通訳活動を行うにあたって必要な道具です。

✅ まず用意する「三種の神器」

①:X(旧Twitter)アカウント
Web3業界では、最新の情報はX(旧Twitter)で発信されることが多いです。またWeb3イベントで繋がった人ともXを交換することが多いので、持っていない人はぜひ「お仕事用アカウント」をひとつ作っておきましょう。

私もXアカウント上で様々な発信をしています!Web3イベントの「参戦表明」もよくしているので、ぜひフォローしてイベント情報の参考にしてください!(下記プロフィール参照)

②:Telegramアカウント


Telegram(テレグラム)はロシアで生まれたメッセージアプリです。Web3業界ではお仕事関連のやり取りをTelegramで行うので、連絡を取るときの必須インフラと言っても過言ではありません。

海外のWeb3プロジェクトの人と名刺交換をしようとすると「名刺は持ってないので、代わりにTelegramを交換しませんか?」と言われることが多いです(笑)

③:名刺
名刺もWeb3業界のあらゆる現場で有効です。上記のXやTelegramアカウント情報を記載しておくと、やり取りがよりスムーズになります。

ステップ2:Web3イベント情報を集める&参加する

三種の神器の用意をしながら、参加するイベントの情報も集めましょう!

中でもイベント情報を定期的にキャッチしやすく、Web3を学ぶ初心者におすすめのイベントやイベントスペースをご紹介します。それぞれの公式SNSも掲載しますので、ぜひフォローして最新情報をキャッチしてみてください!

✅ Crypto Lounge GOX
https://x.com/groove_on_x/status/1946042253241368823
東新宿駅から徒歩5分のコワーキングスペース兼イベントスペースです。毎週さまざまなWeb3イベントや、初心者向けのWeb3勉強会などが活発に開催されています。直近に開催されるイベント情報は公式SNS(Xなど)に掲載されているので、ぜひフォローしてみましょう!

✅ 渋谷Web3大学
https://www.shibuyaweb3univ.com/news/categories/report
月に1回、渋谷でオフラインイベントを開催しています。さまざまな業界の最前線を走るプレイヤーが登壇されていて、トークセッション後に登壇者と近い距離でお話しできます。またオンライン勉強会も開催しているので、Web3の勉強にもおすすめです!(イベントレポート一覧はこちら)

✅ OrbsCafe
https://x.com/JapanOrbs/status/1934028085512569029
Orbs Japanが月に1回開催するWeb3勉強会です。レイヤー3ブロックチェーン「Orbs」だけではなく、様々なブロックチェーンからdApps、ブロックチェーンゲームまで、さまざまな業界のプレイヤーを講師としてお招きしています。

✅ Centrum
https://centrum.substack.com/
渋谷駅直結のWeb3コミュニティスペースで、様々なジャンルのWeb3イベントが開催されています。2025年7月末に渋谷のスペースは終了してしまいますが、これからもWeb3の情報と人が集まるコミュニティとしてイベント開催を予定されています。ぜひSNSをフォロー&メルマガ登録してみてください!

おすすめのWeb3イベントや、SNSでフォローしてほしいWeb3イベントスペースは他にもたくさんありますが、文字数の都合上全てはピックアップすることが難しいです。(Web3業界のみなさま、どうか怒らないでください…!)

今回は東京で開催されるWeb3イベントをピックアップしましたが、Peatixなどのイベントページで「Web3」「ブロックチェーン」「クリプト」と調べてみると、様々な地域で開催されるWeb3イベントも見つけることができます。Peatixのほかに「Luma」というイベントページもよく活用されます。

それからイベントに参加されるとき、参加者のみなさんにも「おすすめのイベントありませんか?」と聞いてみると活動領域が広がりますよ!

事前準備&当日に気を付けることは?

ここからは実際に通訳案件を獲得したときを想定して、事前準備の方法や当日気を付けておきたいことについてお伝えします。

特にWeb3業界は、急成長かつ変化の激しい分野です。他業界とは違う「Web3業界ならでは」の対応が求められる場面も多くあります。Web3通訳案件に挑むときに事前に確認すべき条件やおすすめの予習方法、そして当日の心構えについて解説していきます。

条件はいつも以上に入念にチェック!

日頃から通訳のお仕事をお引き受けする前に、報酬などの条件を依頼元としっかり交渉されると思います。Web3業界は発展途上の業界なので、いつも以上に条件の確認と交渉は念入りに行いましょう。

✅ 事前に確認しておく条件(例):
・報酬の支払い方法(日本円?アメリカドル?仮想通貨払い?)
・交通費は発生するかどうか?
・(商談の通訳案件の場合) 事前資料は共有されるかどうか?
・依頼元の公式サイトやSNSのリンクを共有してもらえるかどうか?

現役通訳者のみなさんは、普段よくお引き受けする案件の条件を踏まえて「これが通訳者として一般的な条件ですよ」と遠慮なく依頼元に伝えてください。

特に報酬の支払い方法は念入りに確認しましょう。なぜなら日本円払いが対応できなくて、アメリカドル払いまたは仮想通貨(ステーブルコイン「USDT」「USDC」)払いを要求されることが多いからです。

仮想通貨払いに対応できるように、仮想通貨のお財布=「ウォレット」をパソコンまたはスマホ内でダウンロードしてアカウントを作成しておきましょう。キツネのアイコンが目印の「MetaMask」というウォレットがおすすめです。

それから服装も確認が必要です。なぜなら通訳に入る現場によって服装は大きく変わるからです。たとえば商談通訳ならスーツを着ますが、トークセッションの通訳ではかっちりとした服装を着る必要がないことが多いです。またイベントスタッフの場合は、企業のTシャツを着ることもあります。通訳に入るシチュエーションや適切な服装について、依頼元にしっかり確認しておきましょう。

ChatGPTを使って予習しよう!

初めて入る通訳案件、特に慣れないWeb3というジャンルの通訳案件に入るときは、事前予習をしたくても「どこから予習したらよいのか分からない」「何が分からないのかが分からない」とパニックになってしまいます。そんな時私はいつも、ChatGPTを活用して予習をしています。

まず通訳に入るクライアント企業の公式ウェブサイトやSNSのURLを教えていただき、それをすべてChatGPTに入れて企業の概要を理解します。その流れで「通訳現場で出てきそうな用語リストを50個作って」とChatGPTにリクエストしています。全て無料版でできるので、ぜひ試してみてください!

※注意:ChatGPTを使って予習するとき、機密情報は絶対に入れないでください!

当日気を付けること:現場対応力がカギ!

今までいろいろなWeb3通訳案件に入ってきましたが、Web3通訳者になるために最も必要な素質は現場対応力です(もちろん語学力や通訳スキルも重要ですが)。

Web3業界は変化の激しい業界のため、そのような変化に応じて「自分に何ができるか?」と考え柔軟に対応できる能力が求められるからです。特に大型カンファレンスやイベントでは、当日にタイムスケジュールや登壇者の急な変更や、騒がしい会場内でのトークセッション通訳など、予測のできない事態が起こることが多いです。

通訳者は日本語と英語(もしくは他の言語)の橋渡しをすることが主なお仕事ですが、私はそれに加えて「この現場がスムーズに進むために、どのようなサポートができるかな?」と常に考えるようにしています。

たとえば商談では「英語は大体聞き取れるけど、スピーキングが苦手」という日本人の依頼者の通訳に入る場合、議事録を取りながらその人の発言の時にだけ英語通訳に入ります。そして商談後に議事録を共有することで、依頼者は自分が理解している内容を再確認できます。

このように現場対応力があるとより活躍しやすいため、未経験の方でもその場の状況に応じて柔軟に対応できる方や、ホスピタリティ能力がある方にはぜひWeb3通訳案件に挑戦していただきたいです!

まとめ:Web3通訳案件は、信頼の「種まき」で獲得しよう

Web3業界は、スピード感と柔軟性が求められる分野だからこそ、通訳者としても多くの成長機会があります。大型カンファレンスの時期は、ただ「仕事を受ける」だけでなく、自ら行動してチャンスをつかみにいく絶好のタイミングです。

今回ご紹介した準備やアプローチ方法を活用しながら、ぜひこの8月、Web3通訳の世界に一歩踏み出してみてください。業界の最前線で、あなたの語学力と対応力が活かされる場面が、きっと待っています!

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大谷かなこ
大谷かなこKanako Otani

カリフォルニア州立大学チコ校卒業。Web3コンサルティング企業「0x Consulting Group」専属通訳。「Web3専門の通訳」として、社内会議だけではなく国内Web3イベントや記者発表会にて逐次・同時通訳に携わる。国内最大規模のWeb3カンファレンス「WebX」では西村経済産業省大臣や「2ちゃんねる」創設者ひろゆきの登壇セッションにて同時通訳も担当。数々のWeb3プロジェクトに携わる中で「言語の壁」が業界で大きな課題になっていることを痛感し、「同業界にて日本と世界を繋ぐ仲間を増やしたい」という想いから通訳者向けにWeb3教育も行っている。好きな英文法は「関係代名詞」。
Xアカウント:@CryptoGirlsFan