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2023.08.15 UP

第4回 「検討する」の英語表現 review

第4回 「検討する」の英語表現 review

通訳者は日ごろから色々な日本語を意識して用いることが大切

練習問題2 英→日 通訳してみよう!

1. 
OK, so this is your new proposal.

2. 
Hmm, it seems to me very interesting.

3. 
Could we have some time so that we can look into it?

比較的リラックスした場面での話と思われます。一文も短く、OK や hmm など、フォーマルではなく、口語表現も出てきていますね。社内会議か、あるいは親しい相手との会話といったところでしょう。
このような状況で通訳者に求められるのは、当人同士のこれまでのやりとりの経緯をあらかじめ知っておくことです。

みなさんの和訳はいかがでしょうか? 繰り返しになりますが、とにかく勇気を出して大きい声で言ってみてくださいね。
メドがたった時点で、訳文を書き出してください。

訳例2-1△
1.オーケー、で、これがあなたの新しい提案ですね。
2.うーん、私にとってとてもおもしろいですねえ。
3.少し私たちに時間をいただけますか? 私たちのほうで検討したいので。

解説
1.本当に親しい間柄であればこれでも良いでしょう。ただ、すべてを漏らさず訳そうとするあまり、直訳調になっています。OKのような挿入語は通訳の際、絶対に訳出せねばならないという法則はありません。臨機応変に入れても入れなくても構わないのです。「あなたの」というのも唐突な印象ですよね。

2.こちらも「聞いたことを一言も落とすまい」と頑張っているような印象です。話し手が「興味深い」と感じているので、わざわざ「私」を入れなくても通じます。また、「とってとても」と似たような音が聞こえてくるのも、工夫次第で改善できそうです。通訳は書き言葉ではなく耳から訳文が聞こえてくるので、「音の面での工夫」も心がけると、より聞きやすくなってきます。「おもしろい」も間違いではありません。ただし、笑いの面での「愉快さ」というニュアンスが入る恐れもあります。

3.こちらも代名詞の we を2度も訳しています。「話し手が何か動こうとしている」ことは聞き手にとって自明の理。通訳の際には代名詞が出てきたら常に「訳すべきか? 落としても良いか?」を意識するよう心がけてください。なお、最後に「~ので。」は尻切れトンボな印象です。こちらも改善の余地があります。

訳例2-2◎
1.こちらが御社のご提案ですね。
2.とても読み応えがありますね。
3.少々お時間を頂戴して、検討させていただけますでしょうか?

1. 親しい相手であってもそれが相手の企業をさす場合、「御社」という言葉がすぐに出てくれば安心です。「これ」や「それ」よりも「こちら」「そちら」のほうが丁寧な印象を与えます。日本語には丁寧語、尊敬語、謙譲語があるので、時と場合に応じて使い分けられるよう、通訳者は日ごろから色々な日本語を意識して用いることが大切。ここではOKをあえて省いています。

2. これまでの2パターンと比べて大胆に訳しています。hmm もあえて落として、it seems to me も盛り込んでいません。interesting も辞書的な意味ではなく、「読み応えがある」と意訳しています。辞書に出てくる語義は、あくまでも「目的言語において一番近いと思われる単語」なので、通訳者は常に鳥瞰図的に全体像を把握しながら、一番しっくり来る言葉を選ぶよう、心がけてください。

3. 今回の英文は雰囲気的にフランクな表現ではありますが、それでも「親しき仲にも礼儀あり」と考えるならば、丁寧な日本語で訳すに越したことはありません。「お時間をいただく」は、より丁寧にすると「お時間を頂戴する」に、「検討する」は「検討させていただく」とできます。ただし、「させていただく」は何度も使いすぎるとくどくなってしまうので、気を付けてください。今はかなり市民権を得てきた「させていただく」ですが、使い方によっては慇懃無礼な印象を与えることもあります。インターネット上には「させていただく」の用法について色々と掲載されているので、興味があれば一度調べてみてくださいね。

* * *

いかがでしたか? 今回は「検討する」に関連した表現を学んでみました。
通訳業は、お金をいただきながらさまざまな分野に触れることができる稀有な職業です。
英語というコミュニケーションの手段をきっかけに、みなさんの学びが豊かになることを願っています。

★前回のコラム

放送通訳者 柴原早苗
放送通訳者 柴原早苗Sanae Shibahara

同時通訳者。獨協大学およびISSインスティテュート講師。上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールドを経て現在はCNNをメインに放送通訳業にも携わる。近年では近年では米大統領選、ノーベル賞、エリザベス女王国葬、テニスATPカップ、G7広島サミット記者会見、ノーベル平和賞受賞ユヌス博士、国会議員連盟の通訳などに従事。通訳や英語関連のコラムも執筆中。