• 通訳

2023.07.04 UP

第2回  説明をわかりやすく伝える英語の表現 explain

第2回  説明をわかりやすく伝える英語の表現 explain

季刊『通訳・翻訳ジャーナル』本誌で連載し、ご好評をいただいていた「通訳者のためのビジネス英語ドリル」がWeb版になって登場!
放送通訳者の柴原早苗さんがビジネス通訳の場面で役立つ表現を取り上げ、訳出のコツや関連フレーズなどを紹介します。

説明をわかりやすく伝えるための英語表現を紹介

前回のコラムではintroduceという単語を中心に、自己紹介の場面で使われる表現をご紹介しました。「日→英」に訳す際には自然な英文にすること、また、「英→日」でも洗練された日本語訳を心がけることが大事であるとお話しましたが、その後、みなさんの通訳訓練では生かされているでしょうか? ぜひ本講座で学んだことを日々の学習に反映してみてください。

さて、ビジネスの場面でよく用いられる表現の一つにexplainという語があります。詳細を説明したり、数字について補足したりという具合に、具体的な内容を相手にわかりやすく伝えるという場面です。explainは中学で学ぶ英単語ですが、いつも同じ単語を使うより、類似表現を使えるようにすると洗練された訳出につながります。

そこで今回は「説明する」という単語をどのように工夫して訳出できるか、早速見てみましょう。

練習問題1 日→英 通訳してみよう!

1. 本日の会議では販売戦略についてお話したいと思います。
2. 来月は販売関連の数字を2 倍にしたいと考えています。
3. ではまず、先月の数字についてご説明いたします。

社内会議の場面と想定されます。あるいは海外から視察団が来社し、会社の将来について話し合う状況かもしれません。このような業務の場合、通常であれば通訳者に対して事前に資料が配布されますので、ぜひすべての数字にしっかりと目を通すようにしましょう。大きな桁の数字は訳出の際につかえたりしないよう、billionmillion までしっかりと確認しながら、業務の前に一度その数字を口にしておくと良いでしょう。

では、上記の1から3の文章を大きな声で訳してみてください。声を出し、自分の耳で聞くことで、自分の訳文を客観的にとらえられます。恥ずかしがらずに訳してみましょう。訳し終えたら次頁の解答欄に記入してみてください。

訳例1-1△
1. 
Today, in our meeting, I would like to talk about the sales strategy.
2. 
We are thinking of doubling the sales related figures next month.
3. 
At first, I would like to explain about last month’s figures.

解説
1. 「本日の会議では」という冒頭の日本語を直訳すると、このような感じになります。完全に誤訳というわけではありませんが、元の日本語が透けて見えるような印象です。また、Today の後にポーズ、in our meeting の後にも一拍置くとテンポの乱れが感じられます。

2. 「~と考えています」をそのままthinking of としています。しかしこの場合、ただ漠然と「思っている」という印象を与えかねません。数字を2倍にしたいという「意志」が込められている場合、もう一工夫が求められます。

3. こちらも「ではまず」という日本語に引きずられています。一字一句を忠実に訳すことも状況に応じては大切ですが、話者のイイタイコトかを瞬時に把握するのも通訳者にとっては大切な役割です。また、センテンス1でもI would like to を使っていますので、冗長な感じになってしまいます。

訳例1-2◎
1. 
Today’s meeting is on our sales strategy.

2. 
The target is to double the sales figures.

3. 
So, here are last month’s figures.

解説
1. この英文を和訳すると「今日の会議は当社の営業戦略についてです」となります。「お話したいと思います」という冗長な部分をすっきり訳出してみると、ここまで短縮できるのがわかりますよね。前置詞のon は実に幅広い意味を持ちます。ここでは「~に関して」という意味です。

2. 「~したい」という希望をtarget(目標)という語に置き換えています。ここではthe objective is to …としても構いません。なお、センテンス1でour sales strategy という具合に「当社の」を盛り込みましたので、この文章ではthe sales figures とし、定冠詞のthe を効果的に用いています。a とthe は日本人が最も苦手としますので、ぜひ一度、文法書などで用法をおさらいしてみてください。

3. 「では、まず」という日本語をSo という一言で訳していますね。なお、文頭で用いる際にはSo の後にコンマが付きます。thereforehowever などの接続詞を使う際、コンマの有無まで意識を向けるよう心がけてください。学習者向けの英和辞典には例文が豊富に掲載されています。私は今でも紙版の辞書を愛用しているのですが、紙版の場合、鳥瞰図的にパッと眺めて斜め読みすることができます。元の日本語は「ご説明いたします」でしたが、この英文からわかるのは、話者がこれから数字を説明しようとしている状況です。コンパクトになっていますよね。

Next→今回のキーワード

放送通訳者 柴原早苗
放送通訳者 柴原早苗Sanae Shibahara

同時通訳者。獨協大学およびISSインスティテュート講師。上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールドを経て現在はCNNをメインに放送通訳業にも携わる。近年では近年では米大統領選、ノーベル賞、エリザベス女王国葬、テニスATPカップ、G7広島サミット記者会見、ノーベル平和賞受賞ユヌス博士、国会議員連盟の通訳などに従事。通訳や英語関連のコラムも執筆中。