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2023.09.13 UP

【タイ語】通訳・翻訳者 高杉美和さん「観光関連の需要が増えている」

【タイ語】通訳・翻訳者 高杉美和さん「観光関連の需要が増えている」
※『通訳者・翻訳者になる本 2020』より転載。

日本での通訳・翻訳需要は英語が大部分を占めており、中国語、フランス語など、学習者の多い言語がそれに続いていますが、それ以外の言語を専門とする通訳者・翻訳者も多数活躍しています。そういった学習者の比較的少ない、マイナーと呼ばれがちな言語=「その他の言語」を専門とする通訳者・翻訳者のお仕事を紹介します!

タイ現地企業の秘書から
エンタメ通訳・翻訳者に

高杉美和さん
高杉美和さんMiwa Takasugi

東京外国語大学外国語学部インドシナ語学科タイ語専攻を卒業後、タイに渡り、1994年にタイ旭硝子(当時)に入社。秘書として5年間勤務したのちに退職。99年に帰国後、フリーランス通訳者・翻訳者として活動を始める。現在、文化・芸能・観光関連の通訳や翻訳、また映像作品の字幕翻訳を中心に活躍中。字幕翻訳作品は『風の前奏曲』など、字幕監修は『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』、『ハッピー・オールド・イヤー』、『プアン/友だちと呼ばせて』など。

大学でタイ語を学び
卒業後は現地企業に就職

タイ語の通訳・翻訳者として、20年以上のキャリアを持つ高杉美和さん。文化、芸能、観光関連の通訳を得意とし、字幕翻訳も手がけている。

もともとタイに縁があったわけではなく、「英語以外の言語を」と大学でタイ語を専攻。卒業後は現地企業に就職し、主にタイ語を使って秘書業務を務め、語学スキルが磨かれた。帰国後、通訳の道を選んだのは、「会社員に戻る気はなく、フリーでできるのは通訳しかないと思ったから」と高杉さん。通訳業務は未経験だったが、果敢にも通訳会社50社ほどに連絡し、登録や面接に行った。

約3カ月後、やっと巡ってきた初仕事は、メーカーでの1カ月間の研修通訳。その現場で鍛えられ、他業種からも研修通訳の仕事が入るようになった。

タイ・バンコクのファランポーン駅
タイ・バンコクのファランポーン駅

好きだった映画関係の通訳・翻訳にも進出
仕事を通じスキルアップ

通訳者デビューからしばらくは、技術、工業、農業分野の仕事を多く請けていたが、次第に本当にやりたい分野にチャレンジしたい気持ちが高まった。
「昔から映画や音楽が好きだったので、『アジアフォーカス・福岡国際映画祭』に売り込みをかけ、2000年に初めてタイ人俳優や監督の通訳を務めることができました。それがきっかけで、ほかの映画祭からも声がかかるようになったんです」

インタビューや記者会見の場に立つ機会を得て、回を重ねるうちに逐次からウィスパリング、そして同時通訳へとスキルも磨かれていった。

字幕を監修したタイ映画『バッド・ジーニアス』では、日本での舞台挨拶の通訳も務めた
字幕を監修したタイ映画『バッド・ジーニアス』では、日本での舞台挨拶の通訳も務めた(右端が高杉さん)。

映画祭の通訳の縁で、字幕翻訳の監修も依頼されるようになる。タイ映画の多くは英語字幕から日本語へ翻訳されるが、それを原語であるタイ語の脚本とつきあわせてチェックする作業だ。2018年から19年にかけて日本でも話題を呼びロングラン上映された『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』も高杉さんが字幕を監修している。

また字幕監修の仕事で字幕のルールを学び、タイ語→日本語の字幕翻訳も手がけるようになった。英語のように案件が豊富ではないからこそ、高杉さんは一つ一つの仕事を大切にし、準備には時間を割く。例えば、映画のプロモーションの通訳であれば、作品を最低3回は見て、監督や俳優のインタビュー動画をチェックすることも欠かさない。

また、タイ語は発音が難しく、同じ発音の言葉でも、声調が違うと異なる意味になってしまうので、タイ語出しの通訳には特に気を使う。通訳を必要とする人の立場に立ち、同時通訳の際はネイティブのパートナーと組めるようにエージェントに働きかけるなど、慎重に、丁寧に仕事に取り組む姿勢の根底にはホスピタリティがある。

「人を喜ばせること、楽しませることが好きなんです。同時通訳も舞台通訳も観光通訳も、お客様のために、という気持ちが常にあります」

芸能・文化関連の通訳をライフワークとし、魅力的なタイのエンタメを日本にどんどん紹介していきたいと思っている。そしていつか、自分の経験を後輩たちに教える場を持つことが目標だ。

Check! タイ語の通訳事情について聞きました

私が通訳を始めた頃は、日本企業のタイへの工場移転が盛んな時期で、研修通訳が多くありました。その後、予算が減ったり、日本語ができるタイ人が増え、研修通訳需要は少なくなりました。一方で近年急増しているのは観光関連だと思います。映画に関わる通訳や翻訳は増えてはいませんが、コンスタントに需要があります。

※ 『通訳者・翻訳者になる本 2020』より転載。 文/京極祥江

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