映画に人生を賭けている人の
重みと深みがある言葉を受け渡すことが
通訳者としての喜び
来日記者会見、インタビュー、試写会、レッドカーペット、映画祭、日本外国特派員協会(FCCJ)での記者会見など、さまざまな場面で海外や日本の映画関係者の言葉を訳す。2020年は世界規模でコロナ禍に見舞われたため、Zoomインタビューが案件の中心を占めた。映画業界の通訳は、映画やコンテンツビジネスに対する深い知識が求められることから、クライアントは映画に詳しい人に直接仕事を依頼する傾向がある。現在、映画関連の仕事を中心に活躍する通訳者は、全国でおよそ十数名という狭き門だ。今井さんも映画配給会社や映画祭主催者、FCCJなどから仕事を直接受注している。
ひと言を適切に訳すために
できるかぎりの準備を
年間200本という指標を掲げ、あらゆるジャンルの映画を観る。本音を言えばアメリカのインディーズ映画のファンだが、仕事となれば選り好みはしていられない。映画業界に入って20年余り、いつの間にか苦手なホラー映画にも詳しくなった自分がいる。
「先輩通訳者の中には350本観ている方もいるので、200本ぐらいでドヤ顔はできません(笑)。200本の中にはいろいろな映画がありますが、よく勉強してみるとどの作品にも製作者の熱い情熱が込められていることがわかります。そうなると、あまり得意ではないホラー映画にも愛着がわくし、おもしろいと思ってしまう。結果的にまんべんなく愛しちゃいますね」
案件を受注すると、宣伝対象の作品を観ることはもちろん、関連する過去作品の系譜や人物関係にまでさかのぼって背景を調べる。本番までの時間で、でき得るかぎりの準備をするのは、キャリアを重ねた今も変わらない。特に映画監督の通訳をする際には、抽象度の高い言葉を訳さなければならない場面が多く、話し手の言わんとしていることを理解していないと対応しきれない。
「監督の発したひと言を訳すのにも、その監督の過去のある作品を観ているかどうかで言葉の選び方が変わってくることがあります。そういう難しさを日々感じているからこそ、事前準備を大切にしています」
※『通訳者・翻訳者になる本2022』より転載 取材/岡崎智子 撮影/合田昌史(特記以外)
Next→また次のステップへ
1歳から10歳まで米ニューヨーク、シカゴ、フィラデルフィアで過ごす。上智大学外国語学部英語学科卒。大学卒業後は映画配給会社に入社し、映画の買い付け、海外交渉、法務などの業務に10年間従事。2008年、通訳者養成スクール卒業を機に独立し、以降、映画業界を中心にフリーランス通訳者として活躍している。マーティン・スコセッシ、クリストファー・ノーラン、オリバー・ストーン、新藤兼人、ベニチオ・デル・トロ、サミュエル・L・ジャクソン、キアヌ・リーブスなど、多数の映画監督や俳優の通訳を務める。
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