外国語の台詞は
ニュアンスまで伝わるように翻訳
Q.作中では中国語、ベトナム語など外国語の台詞も多く出てきますが、それらはどのように作成していますか?
――基本的には、著者の黒丸さんが日本語で台詞を考え、それを翻訳者の方が翻訳するという形です。こちらでも清水さんに間に入っていただき、翻訳者の方への依頼をお願いしています。
敬語や俗語のニュアンスなど、細かいところまで毎回丁寧に訳していただいて、とてもありがたいです。ときには、「こんなニュアンスの台詞にしたいのですが…」とやりたいことを説明して、清水さんと翻訳者さんにぴったりなやり取りを考えていただく、という場合もあります。
その言語ならではの言い回しや表現の難しさは、やはり私たちにはわからない部分ですので、専門家の方にお力添えいただき、ネイティブが読んでも自然なレベルにまで高めていただいています。
こうした翻訳の精密さも、『東京サラダボウル』の魅力の一つだと思います。
第3巻では、有木野が通訳の種類や司法通訳について解説するシーンも。
Q.作品の魅力、また注目してほしいポイントについて教えてください。
――まず、『東京サラダボウル』というタイトルにも込められたテーマの魅力です。このお話には、様々なバックグラウンドを持つ人が登場します。例えば東京で暮らす外国人たち。「人種のサラダボウル」という言葉があるように、彼らはそれぞれのアイデンティティを保った状態で、マジョリティである日本人と共存しています。彼ら「マイノリティ」の声は、ともすると埋もれてしまいがちです。でも本当は、そこには55万もの人がいて、55万人分の人生があります。
『東京サラダボウル』は、そんな社会からこぼれ落ちてしまう一人一人に焦点を当てた物語です。
「多様性を認めましょう」と言葉で言うのは簡単ですが、実際に自分と異質な存在が身近にいたら、受け入れるのは意外に難しいと思います。でも相手だって、母語の通じない世界で懸命に日々を生きている、一人の人間です。衝突もするし、食い違いも起こるけれど、互いの存在を尊重して認め合うことも、きっとできると思うのです。そんな複雑なテーマとメッセージが、この作品の奥深い魅力だと考えております。
主人公の鴻田とアリキーノ(有木野)は、誰に対してもレッテルを貼らずに話をしますし、社会からこぼれ落ちてしまう人たちを、見て見ぬふりしません。そこがまた、カッコいいんですよね。犯罪に巻き込まれてしまった外国人に対する、鴻田とアリキーノなりの誠実な向き合い方にも、ぜひ注目してほしいです。
それから、「国際捜査」と「警察通訳」という題材の新しさです。
ほかではあまり見たことのない題材ですので、「どんなことをしているんだろう?」と単純に興味を惹かれると思います。私もこの作品を担当するまでは全く知らない分野だったので、打ち合わせのたびに知的好奇心がくすぐられます。警察で使われる「逐次通訳」と「同時通訳」「ウィスパリング」の違いなども、おもしろいのでぜひ注目してみてください。
そして警察描写や通訳表現のリアルさ! やはりこれではないでしょうか。
先ほども申し上げた通り、監修の方に非常に細部まで見ていただいていますし、著者の黒丸さんもご自身で警視庁の見学に行くなど、すごく熱意を持って描かれているんです。ですので、警察モノ好き・通訳好きにはたまらない仕上がりになっているのではないかと(担当が勝手に)自負しております。
キャラクターの過去と現在が複雑に絡まり合う、緻密なストーリーも見どころです。アリキーノの過去が明らかになったり、大きな犯罪の影がちらついたり…ここからますます目が離せない展開が続きます。警察や通訳に興味のある方も、知らない世界をのぞいてみたい方も、ぜひ『東京サラダボウル』をよろしくお願いいたします!
著者 黒丸さんから
『通訳翻訳ジャーナル』読者へのコメント!
作品を描いていく中で、通訳・翻訳に携わる方々のプロ意識や責任感、使命感を知り、そういったことも描いていければと思っていました。正直まだまだ描き足りないですが、きっとおもしろく読んでいただけると思いますので、よろしくお願いします。
東京サラダボウル ー国際捜査事件簿ー 1~5巻 発売中!
黒丸 著/講談社
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©︎黒丸/講談社