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2024.06.12 UP

第7回  スポーツにつきものの「怪我」や「医療」に関する通訳

第7回  スポーツにつきものの「怪我」や「医療」に関する通訳

スポーツ通訳者として、バレー、バスケ、スキーなどさまざまな競技の通訳を務める佐々木真理絵さんが、スポーツ通訳というお仕事の内容と、その現場で出会った印象的な出来事について紹介します。通訳をする上で欠かせない、スポーツ専門用語の解説も!
(※隔月更新予定)

選手が怪我をしたとき、通訳者はどうする?

“Injury is part of sports.” 「怪我はスポーツの一部だ」

こちらは、2016年~2023年にバレーボールVリーグのパナソニックパンサーズに在籍していたミハウ・クビアク選手の言葉です。

選手にとって “怪我はスポーツの一部” なら、それは通訳者にとっても同じです。
今まで様々な競技に携わってきましたが、どの競技でも、どの試合でも、私はチームの勝利よりも「誰も怪我なく無事に終わってほしい」と強く願ってきました。

しかし、そんな思いとは裏腹に、怪我は突発的に起こります。
そして、事が起こってから実感するのが “怪我に関する英語が咄嗟にてこない!” ということです。

医療のイメージ
外国人選手の怪我の際には、医療従事者とのやりとりも通訳する必要がある。

怪我が起こった時、通訳者として訳すのは以下のような内容です。

・受傷が起こった経緯
・痛みの度合い
・ズキズキ、ジンジンなどの痛みの種類
・どういう処置が必要か
・すぐ病院に行くのか、ここで応急処置をするのか

私はいつも、“sprain”(捻挫) “strain”(肉離れ)がいつも頭の中でこんがらがります。どっちがどっち?! って…。「肉離れ」には “pulled muscle” など、他の表現もあるので合わせて覚えておくと良いでしょう。

2023年に行われた7人制ラグビーのオリンピック最終予選で、私は海外チーム担当として試合会場にいました。このとき、試合中に選手が額を切ってしまいました。
会場のドクターに、「縫わなきゃいけないですね。ここで行うこともできますが、すぐタクシーを呼んで病院で行うこともできます。病院の方が本人も安心ですよね?」と言われたので本人に伝えると、「病院には行かない、ここでやってほしい」との返答でした。

実は血を見るのがとても苦手な私……。「え! ここでやるの?!」と内心大焦りです。
選手本人とドクターに「せっかくだから佐々木さんも処置しているところ見なよ!」と言われましたが、丁重にお断りさせていただき、パーテーション越しに付き添いました。

数時間後にはその選手が「見て! いい感じに傷口くっついたよ! 対応ありがとう!」と笑顔で話しかけくれ、ようやく一安心でした。

怪我をきっかけにコミュニケーションが深まることも

怪我は可能な限り避けたいです。しかし、怪我によって引き起こされることは、ネガティブな側面ばかりでないと信じています。通訳としてサポートを行うことで、選手との距離が縮まるきっかけとなります。

クビアク選手がVリーグでプレーした初めてのシーズン、彼は試合中に足を痛めました。治療のため、私の運転する車で週1回、片道1時間以上かけて病院へ通いました。
その道中にいろんな話をしました。最近の練習で思うこと、最近ハマっていること、家族のこと。ついでにお茶をし、ケーキを食べに行くこともありました。シーズン中の慌ただしさの中、静かに語り合う時間を持てたのはとても貴重でした。

休憩時間のケーキ
当時、クビアク選手とお茶をしたときの写真。一緒にケーキを楽しんだ。

怪我が起こった直後は、選手の精神状態が不安定な事もあります。そういった場面での通訳はとても重要です。

また、ドクターの言葉を忠実に伝えるには、それに関する英語の知識が必要不可欠です。
その点で私は当初とても苦戦しました。当時パナソニックパンサーズにいた時の私は、体の部位の英語名もうろ覚え、怪我に関する英語の知識がありませんでした。
チームのトレーナーに英語が堪能な方がいたので、頼りっぱなしとなってしまいました。

「これではダメだ」と心底思い、日々勉強を積み重ねて、ここ数年では緊急事態の怪我の通訳もしっかりと伝えられるようになってきました。しかし、まだまだ勉強中です。

選手にとって、時に競技人生を左右する怪我の場面。
そんな時に信頼してもらえる通訳であるよう、これからも日々準備を重ねていきます。

怪我の場面でよく使う英語表現

医療用語はキリがないですが、スポーツの現場で特に頻出する単語をいくつかピックアップしました。
簡単な単語なのに、いざという時咄嗟に出てこない、なんてことのないように準備しましょう!

swollen 〜が腫れる

disinfect 〜を消毒する

inflammation 炎症

antibiotics 抗生物質
※↓カタカナなので英語かと思いきや違う! 注意が必要な単語!
cast ギプス 

X-ray レントゲン 

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★佐々木真理絵さんの連載一覧

佐々木真理絵
佐々木真理絵Marie Sasaki

大学卒業後、一般企業への就職を経て、2013年 日本プロバスケットボールリーグチーム「大阪エヴェッサ」の通訳兼マネージャーとなる。バスケットボールチーム、バレーボールチームで経験を積みながら猛勉強し、現在はフリーランスのスポーツ通訳者として活動中。世界バレーなどの大会での通訳のほか、NCAAバレーボール日本遠征、日本の大学生チームの海外遠征、スキークロスFISカップ ヨーロッパ遠征などへの帯同も行う。