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2023.12.25 UP

第2回 【今年の言葉】Hallucinate, 地球沸騰化 / Global boiling

第2回 【今年の言葉】Hallucinate, 地球沸騰化 / Global boiling

長年にわたり国際会議での各国首脳の通訳をはじめ、国際訴訟・裁判、オリンピックなどで活躍されてきたベテラン通訳者の右田アンドリュー・ミーハンさんが、最新の時事ニュースや、エンタメ、スポーツ、カルチャーなど旬なトピックスに関する英語表現を解説。
知っているとビジネスや国際交流で役立つ&おもしろい! そんな英語の知識をお伝えします。

Word of the Year/今年の言葉

通訳・翻訳会社ミーハングループの右田アンドリュー・ミーハンです。Web版 通訳翻訳ジャーナルにて、2023年11月より始まった私のコラム「通訳者がレクチャー!最新ニュースで学ぶ英語表現」では、月に1度、ニュースやスポーツ、エンタメなど、その時々の旬な情報に関連した英語表現を紹介してまいります。どうぞ皆様、よろしくお願いします。

2回目のテーマは、2023年も暮れということで英語及び日本語の「今年の言葉」についてです。

Hallucinate(Hallucination / ハルシネーション)の意味

最初にご紹介するのは英語の「今年の言葉」。
1995年から英語学習者のための辞典を出版している Cambridge University Press が運営している無料オンライン辞書 Cambridge Dictionary は、毎年同辞書に追加された言葉や意味の中から「Word of the Year」を選んでいます。

今年2023年の「Word of the Year」に選ばれた言葉は Hallucinate でした。本来であれば Hallucinate は「幻覚」という意味の言葉になります。でも今回 Word of the Year に選ばれた理由は、新たな使い方/意味が追加されたため。それはMachine Learning / ML 分野、つまりコンピューターサイエンス / AI (Artificial Intelligence) に関連した意味/使い方になります。


Cambridge Dictionary「The Cambridge Dictionary Word of the Year 2023 is…」

*The Cambridge Dictionary Word of the Year 2023の発表ページはこちら

Hallucinate は、コンピューターサイエンス / AI に関わる人々が使い始めた「俗語表現」で、一般用語では Confabulate と表現されます。

confabulate verb
to invent experiences or events that did not really happen:
When an artificial intelligence (= a computer system that has some of the qualities that the human brain has, such as the ability to produce language in a way that seems human) confabulates, it produces false information:
(Cambridge Dictionary https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/confabulate

コンピューターサイエンス / AI 領域での Hallucinate の意味は、こちらの confabulate と同様で、簡単に言えば「AIが間違った回答・結果を出すこと」です。それがナゼ Hallucinate という言葉で表されるようになったのでしょうか。

Hallucinate⇒AIが「幻覚でも見ている」ような
とんでもない回答を出すこと

AI(機械側)は、わざと間違った回答を出すわけではありません。学習した情報や、取り込んだ情報に基づいて処理をし、たどり着いた結果を出しているにすぎません。その「結果」が間違った内容になる理由は、元になった情報が偏っていたり、結果を出す工程や、結果表示の仕組み等に問題があると考えられています。つまりAIは学習を基にした結果を出しているにすぎず、意図的に間違った情報を出しているわけではないのです。

しかし、その「間違った結果」を人間側=利用者側から見た場合、AIがまるで「幻覚」を見ているように見える、または AI自体が「妄想」や「もっともらしい嘘」をついているかの如く見えるのを、大げさに Hallucinate と言う言葉を使って、コンピューターサイエンス / AI に関わる人々が一種の「ジョーク」として表現しているのです。ちなみに Hallucinate は、微細な間違いと言うよりは、冗談の様な突拍子もない(ありえない)結果や、とんでもない回答、つまり「このAI、幻覚でも見てるんじゃないか?」と思うような結果が出た場合に使われるとのこと。

しかしAIは、いかにも「正しい回答」の様に結果を表示するので、AIに質問/お願いした内容に詳しくない場合、表示された回答が「正しい結果」か、それとも「間違った結果」なのか、判断しづらいといった事態も発生します。

hallucinate verb
When an artificial intelligence (= a computer system that has some of the qualities that the human brain has, such as the ability to produce language in a way that seems human) hallucinates, it produces false information:
(Cambridge Dictionary https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/hallucinate

日本では Hallucinate は、Hallucination (noun) / ハルシネーション と呼ばれ、その現象については、先ほど上げたように「もっともらしい嘘」「AIによる妄想」などと訳されている事が多いようです。

Cambridge dictionary の Word of the Year 2023 のページには、Hallucinate / Hallucination 以外にもAIに関連した表現が紹介されています。あわせてチェックするのがおすすめです。

日本語の今年の言葉:地球沸騰化 / Global boiling

一方、日本語の「今年の言葉」ですが、2023年11月30日「三省堂 辞書を編む人が選ぶ『今年の新語2023』選考発表会」で発表された大賞は、アントニオ・グテーレス国連事務総長が発した「地球沸騰化 / Global boiling」でした。

三省堂 辞書を編む人が選ぶ『今年の新語2023』
大賞  地球沸騰化
第2位 ハルシネーション
第3位 かわちい
第4位 性加害・性被害
第5位 ○○ウォッシュ
第6位 アクスタ
第7位 トーンポリシング
第8位 リポスト
第9位 人道回廊
第10位 闇バイト
https://dictionary.sanseido-publ.co.jp/shingo/2023/ より

第2位は、Cambridge Dictionaryと同様の「ハルシネーション」。それ以外にも多くの英語表現がノミネートしています。「三省堂 辞書を編む人が選ぶ『今年の新語2023』」では、新語の選定は一般公募を実施し、これらの投稿などをもとに、辞書を編む専門家である選考委員が一語一語厳正に審査して「今年の新語2023」ベスト10を選定しています。今回の応募総数は、のべ2,207通になったとのことです。

4位に選ばれている「性加害・性被害」ですが、英語では「相手の同意なく性的なことを目的に行われた」犯罪行為は sexual assault と表現されます。sexual harassment も使われますが、これは主に会社等の組織における性的な嫌がらせを意味することが多いです。また sexual violence は性暴力、sexual abuse は性的虐待と言う意味です。これらをまとめて sex crime / 性犯罪 と表現する場合もあります。

刑法の改正により、日本でも2023年7月13日より「不同意性交等罪・不同意わいせつ罪」が施行されていますが、この「同意」は、英語で consentといいます。双方の同意が得られない場合、つまり不同意については、一般的には non-consensual と表現されます。

このほか、多くの日本語が「今年の言葉」として選ばれました。弊社ブログでもご紹介した阪神タイガースの優勝=アレ(A.R.E.)は、今年の「新語・流行語大賞」(自由国民社)で年間大賞に選ばれています。

<参考記事>
ことしの新語・流行語大賞 「アレ(A.R.E.)」が年間大賞に(NHK)
Meehan Group Blog 英語で表現「阪神タイガースがアレを果たす」

また、同じく「新語・流行語大賞」で選考委員会特別賞に選ばれたのは、とにかく明るい安村さんの“I’m wearing pants!”でした。コチラについても弊社ブログでご紹介しているので、ぜひあわせてチェックしてみてください。
Meehan Group Blog Britain’s Got Talent でとにかく明るい安村が成功した理由 ~英語表現 + ローカライズ~

師も走ると言う12月。通訳者・翻訳者も忙しい日々を過ごしておりますが、このせわしない時期を乗り越えて、皆様が良い年を迎えられる事を、心より願っております。Wishing you a Peaceful New Year.

右田アンドリュー・ミーハン
右田アンドリュー・ミーハンAndrew Migita-Meehan

株式会社ミーハングループ代表。米アリゾナ大学を卒業後、住友銀行ニューヨーク支店に入社。1994年より翻訳者・通訳者としての活動を開始。ニューヨーク、ワシントンDCで住商事件(1997-2001)、山一證券破綻事件(1998-1999)等、大型訴訟案件の通訳・翻訳を担当。2004年より日本を拠点とし、数多くの国際会議、国際訴訟・裁判、オリンピック等で通訳を務める。また翻訳者、スクール・大学院講師としても活躍中。
株式会社ミーハングループWebサイト:https://meehanjapan.com