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2023.06.01 UP

第6回 フランス リヨン
ヴァショー犬飼玲子さん(生活編)

第6回 フランス リヨン<br>ヴァショー犬飼玲子さん(生活編)
※『通訳・翻訳ジャーナル』2022年冬号より転載

海外在住の通訳者・翻訳者の方々が、リレー形式で最新の海外事情をリポート! 海外生活をはじめたきっかけや、現地でのお仕事のこと、生活のこと、また、コロナ下での近況についてお話をうかがいます。

ヴァショー犬飼玲子さん
ヴァショー犬飼玲子さんReiko Vachot Inukai

名古屋生まれで高校まで名古屋で過ごす。外国語が好きで大学ではアラビア語を専攻。卒業後はアメリカ系銀行に就職するも縁あってフランスに移住し、フランス語を本格的に勉強しパリ第7大学に編入して言語学を専攻。学位取得後は、学生時代にすでに始めていた日本語教育の仕事を公立・私立高校、グランゼコールなど複数の勤務先で継続。通訳翻訳会社勤務を経てフリーランス仏日通訳・翻訳者として独立。
HP:https://www.r-v-i.com/fr/ 仏語レッスン:https://reikova.com

趣ある中世の街並みが残る産業都市に暮らす

現在住んでいるのは、フランス南東部の都市リヨンです。引っ越してきたのは2003年なのでもう随分前になります。夫がリヨン近郊の勤務地に転勤になったため、半年以上遅れて子どもと一緒にナントから移ってきました。前に住んでいたナントでは9年暮らし、仕事もあり友達もいたので名残惜しかったのですが、フランスは長期の単身赴任をする家庭は少ないですし、やはり家族一緒が良いと思い、引っ越しました。

リヨン旧市街の通り。

住み慣れてみるとリヨンは良い町だと思います。沿岸部に近いナントは夏涼しく冬に温かいのですが、リヨンは内陸で夏に暑く、冬に冷え込むので気候の違いを感じました。ただ、冬に天気が悪く湿気が多いナントに比べると、リヨンは寒暖の差は激しくても夏も冬もカラッとしており、良い天気の日が多いです。何でもある大きな町ですが、パリほどではなく小さくまとまっているので便利だと思います。古くは絹織物で栄えた町で、その影響で染料関連から発達した化学産業が現在も盛んです。またローマの植民都市ですから、古い歴史を持つ町であることも魅力の一つだと思います。

リヨンの旧市街には中世の街並みが今も残っていて、現在も実際にそこで人が暮らしているのがおもしろいと思います。ゴシック建築もありますが、イタリアルネサンスの影響がはっきりしている建物もあり、カラフルなファサードが南国情緒を醸し出しています。

またこの地区では「トラブール」という渡り廊下のようなものでいくつかの建物が繋がっていて、外からは見えないのですが、入口から入って裏に抜けていく秘密の通路のようになっているところがあります。観光客向けの案内板も出ていますが、住民もいますし、勝手がわからないと入りにくいですから、訪れた際には一通り自分で歩いた後、観光局のガイドツアーに参加してガイドさんと一緒に回ると良いと思います。日本の要人の方の通訳をしたときに、郷土史家の方の案内でこの地区を回ってとても興味深かったので、その後自分で観光局のツアーに参加したこともあります。フランス語以外に英語など外国語のツアーも用意されています。

リヨンの中心部を流れるソーヌ川にかかる橋の上からの景色。

現地生活で感じるフランスと日本との違い

こちらで生活するうえで感じた違いについてですが、活動の単位を夫婦とかカップルで捉えているのが日本と違うな、と最初思いました。夫の友達の家に夫婦で招待されたり、子どもを預けて夫婦だけで友人宅に食事に出かけたりすることがよくあります。日本では小さい子どもを置いて両親が夜に遊びに出かけることは少ないのではないかと思います。

また自分がパリやランスの大学で学生だったときや、教員として公立高校やグランゼコールに勤めていたときに、日本の学校と比べて急な変更が多く、きちんと組織されていないと感じました。教室や時間割が何度も学期の途中で変わったこともありましたし、教室に行ったら他の人達が授業をしていた、試験を受けていたらドヤドヤと他の学生たちが入ってきた、ということを学生としても教員としても何度経験したかわからないほどです。教室の割り振りがきちんとできていない、と感じました。

子どもを通して経験した学校は、規律が少なく、小学校では先生によって使っている教科書が違っていて驚いたこともあります。また日本でいえば学芸会のようなイベントでのコーラスや劇などが、日本人の私からしたら明らかに練習不足で人前で発表するレベルに至っていない、と思ったことも多々あります。しかし誰も気にしている人もおらず、可愛くて良いと思っているようです。子どもに完ぺきを求めるような印象がある日本の学校との違いを感じました。

コロナ下で変化したコミュニケーション

消毒薬を揃えたり、ソーシャルディスタンスを取るために設備の配置を変えたりと、商店や飲食店、学校など、あらゆる施設が努力を強いられていますが、どこも対応に努力しているように見えます。前向きな姿勢でできることをやっていく、というフランス人の姿勢を見た気がします。

フランスではビジネスでの挨拶は握手中心、ちょっと親しい間柄、あるいはインフォーマルな集まりでは両頬にキスして挨拶するのが一般的ですが、コロナ禍で握手もキスも危険ということで肘をつけ合う、拳骨を握ったままちょっと当てる、という挨拶が一般的になっています。最初はキスできないから「変な感じだねー」などと言い合っていましたが、今はそれもなくなってキスや握手をしないのに慣れてきた感じです。これが長く続いて慣れてしまったら、コロナ禍が終わっても前のようにキスする習慣は戻らないのかな? と思うこともあります。

16世紀のルネサンス様式の建物として知られる、ミニチュアと映画の博物館。

<地元のオススメスポット>

リヨンの旧市街地区は雑貨屋さんや土産物屋さんが多く目につきますが、レストランやカフェもあります。その中には隠れたテラスがあるところがあり、ちょっと珍しいので陽気の良い時期なら立ち寄られると良いと思います。
私が好きなのはミュゼ・ガダーニュという博物館の最上階にあるカフェ・レストランです。この博物館の建物は16世紀のルネサンス式でとても趣きがあります。さらに、最上階のカフェ・レストランのテラスは外からは全く見えず、そこにテラスがあることもわからないのですが、行ってみると空中庭園のようで気持ちの良い空間になっています。天気の良い夏の日ならパラソルの下で食事できます。

ミュゼ・ガダーニュ。下からは見えないが、屋上にはカフェ・レストランがある。

※ 写真/ヴァショー犬飼玲子さん提供