現役通訳ガイド(全国通訳案内士)が実際にお客様をお連れしたツアーの様子や観光地の魅力を紹介します。
今回は通訳ガイドの福田誠さんが担当します。
●コロナ禍前4月某日
鳥取県境港でのクルーズ業務(クルーズ船のお客様のツアー)
お客様:境港に到着した、クルーズ船乗船のお客様(バスごとに担当、20名超)
•山陰地方の観光地を巡る1日ツアー
•ツアーの目玉:出雲大社、足立美術館、鳥取砂丘 など
通訳ガイドの福田誠です。
通訳ガイド歴は約10年で、主に東京を拠点にガイドをしています。
現在はロングツアーが多いですが、FITや日帰りなどさまざまな業務に携わって、現在も日本全国を駆け回っています。
コロナ禍によって2020年春から3年もの間、身動きが取れませんでしたが2023年春になってガイド需要が復活し、3月頃から大忙しとなっています。
クルーズ業務って何をするの?
全国通訳案内士にはさまざまな業務がありますが、その中でも新しい経験や出会いの多い業務が、クルーズ船業務になります。
コロナ禍が始まった時に、某クルーズ船が話題となったのは記憶に新しいかと思います。
外国人のお客様が日本を周る場合、1番スタンダードなのは公共の交通機関、特に新幹線などを駆使して、日本を周遊するツアーです。しかし一部の外国人の方、特に高齢のお客様の場合、クルーズ船で日本各地の港に寄港して、その港周辺の観光地を巡るという方法を取るケースもあります。その際に、各地の港でお客様をお迎えし、周辺の観光地にお連れするというのが全国通訳案内士の仕事の一つなのです。
このようなクルーズ業務では、基本的にその寄港地周辺の通訳ガイドが担うものですが、地域や時期によっては通訳ガイドが不足して、遠方の通訳ガイドにも声がかかることがあります。関東在住の私にも、関西や東北など、遠方でのクルーズ業務の依頼がくることもあります。
出航時間はずらせない!時間管理が重要
このクルーズ業務というのは多くのコースがあり、バスも台数口で動き、たくさんのガイドがアサインされる業務になります。クルーズ船の規模にもよりますが、バス数十台にお客様が分散して乗車し、数十人のガイドが一斉に動くこともあります。ですからほとんどの場合は通訳ガイドは現地に前乗りして、夜に全体ミーティング、その後、行き先別のグループに別れての打ち合わせを行います。
この打ち合わせが非常に重要になります。なぜなら場所によっては10台近いバスが同じ目的地に行くため、混乱をきたさないように調整が必要です。例えば訪問先の順番を入れ替えたり、タイミングをずらすなどして、すべての人がスムーズに訪問できるように事前に打ち合わせを行います。
当日、通訳ガイドは指定された時間に港に集合し、それぞれにアサインされたバスにてドライバーさんを交えて打ち合わせをします。バスの前に立って船から降りてくるお客様をお迎えし、受付をして、人数を報告後に出発します。
●ツアーの行程
9:00 境港でお出迎え
→出雲大社および島根県立出雲古代歴史博物館 →昼食
→水木しげるロード散策
→15:30 境港着
港からバス10台にわかれて
通訳ガイドの案内で各観光地へ
さてこのような特徴のあるクルーズ船業務ですが、コロナ渦前に、鳥取県境港市のフェリーターミナル境港(さかいこう)に寄港するクルーズ船のお客様のツアーを担当したことがあります。
ツアーの目玉は毎回異なり、山陰地方だと出雲大社、足立美術館、鳥取砂丘などがありますが、その時は出雲大社でした。
バスが10台だったため、5台が最初に出雲大社、5台が島根県立出雲古代歴史博物館という割り振りとなり、昼食は開始時間が同じという行程でした。私は島根県立出雲古代歴史博物館に先に行くバスを担当しました。
まず島根県立出雲古代歴史博物館と出雲大社をご案内し、その後、水木しげるロードに行きます。
ツアーは昼食を含む6時間ですが、クルーズ船側からの要請で6時間は超えなくてはいけない(短いとクレームにつながるそうです)、しかし出航最終確認の2時間前(15:30)までに戻はなくてはならない、という旅程管理上での制限がありました。
通訳ガイド同士が綿密に連絡を取りながら、バスによって差が出ないように、観光先でのルートも打ち合わせをして臨みました。
出雲大社参拝前には日本の歴史
神話などをからていねいに説明
私の担当したバスは最初に島根県立出雲古代歴史博物館に向かう行程だっため、車内でお客様への説明として、日本の神道、古事記などを引用した日本神話、因幡の白兎、国譲りなどの話をして、島根が日本の歴史でどれだけ重要なのかについて説明を行いました。
お客様の日本文化に対する理解度は千差万別ですから、基本的なところから説明することが重要になります。さらにクルーズ船のお客様は高齢のお客様、足の悪いお客様が比較的多いため、移動のペースなどには特に配慮するようにします。
また、20名以上のお客様に対して、全員にちゃんと聴こえる状態で説明をしなければクレームにつながるのでそこも配慮をします。
ですから絶対にお伝えしておきたいことについては、できるだけバス内でマイクを使って、しっかり聞こえる状態で行うように注意しました。
特にこの日のハイライトである出雲大社では、参道にたくさんの兎の像があるので「因幡の白兎」の話は必須です。
また出雲大社の参拝方法は2礼4拍手1礼であり、普通の神社での2礼1拍手1礼とは違うということをお伝えし、お客様が特別な場所に来ているんだということを強調するようにしました。
昼食後、水木しげるロードでは日本のアニメなどを交えながら、妖怪などの文化についても説明して、無事に時間内に港に到着して、業務を終了しました。
私はその翌日も別の船の業務があり、その業務が終わったのちに後泊、翌日に高知に移動して、1日目にご案内したお客様の乗った船を高知港にてお迎えし、お客様に非常に驚かれるというオチがつくのでありました。
このようにクルーズ業務は大変な面もありますが、多数の通訳ガイドや地元のバスなどが総力を結集して行う業務のため、通常だと観光ルートに入っていない場所をガイドすることができたり、普段は顔を合わせることができないガイド同士で交流ができるという利点もあります。
今後は、コロナ前のように、クルーズ船の寄港が日本中の港で増えていくことが予想されます。その時に「私できます」と手を挙げられるようにさまざまな場所を下見することが重要になってくると思いますので、積極的に下見に行ってみるといいと思います。
出雲大社
https://izumooyashiro.or.jp/
水木しげるロード
http://mizuki.sakaiminato.net/road/
島根県立出雲古代歴史博物館
https://www.izm.ed.jp/
全国通訳案内士。2013年全国通訳案内士資格を取得後、通訳ガイドとして個人客から団体まで幅広く日本全国を案内し、通訳業務も含めて現在に至る。新人研修ほか各種の通訳ガイド関連研修の講師も務める。
おすすめの記事
-
2024.09.13 UP
島崎秀定 著『通訳ガイド美桜の日本へようこそ! プロポーズは松本城で』【おすすめ新刊案内】
- #通訳ガイドをめざす
- #スキルアップ(通訳ガイド)
-
2024.06.10 UP
全国通訳案内士試験情報【2024年6月更新】
- #通訳ガイドをめざす
- #多言語(通訳ガイド)
- #スキルアップ(通訳ガイド)
-
2024.03.01 UP
セカンドキャリア
ミドル・シニアから通訳ガイドになるには- #通訳ガイドをめざす
- #通訳ガイドコラム&インタビュー
-
2023.12.11 UP
第6回 沖縄ツアー その2 沖縄本島編
- #通訳ガイドをめざす
- #通訳ガイドコラム&インタビュー
- #スキルアップ(通訳ガイド)