第2回 山梨県~富士山ツアー

現役通訳ガイド(全国通訳案内士)が実際にお客様をお連れしたツアーの様子や観光地の魅力を紹介します。
今回は通訳ガイドの福田誠さんが担当します。

●コロナ禍前7月某日
富士登山ツアー
お客様:主に欧米からのお客様16名
•都内出発の二日間の富士登山ツアー
•ツアーの目玉山岳ガイドと行く富士登山、御来光

通訳ガイドの福田誠です。
通訳ガイド歴は約10年で、主に東京を拠点にガイドをしています。
現在はロングツアーが多いですが、FITや日帰りなどさまざまな業務に携わって、現在も日本全国を駆け回っています。
コロナ禍によって2020年春から3年もの間、身動きが取れませんでしたが2023年春になってガイド需要が復活し、3月頃から大忙しとなっています。

日本の象徴富士山と登山

コロナ禍以前の7月某日二日間のツアーでお客様を富士山の登頂を目指すツアーにお連れしました。
目標は富士山に登るという非常にシンプル、肉体的にも精神的にも大変ですが非常に達成感のあるツアーです。

●ツアーの行程
新宿を7:00に出発 →富士山吉田口五合目までバスで移動 →昼食後登山開始
→七合目山小屋にて夕食および仮眠
→22:00頃 頂上に向けて出発
翌日04:00頃 登頂、御来光まで待機または御鉢巡り →5:00頃 下山開始
→9:00 五合目まで下山 →バスで温泉施設、その後都内へ

日本を代表する観光地、でもガイド泣かせ

外国人のお客様が日本をイメージをする際、まず最初に思い浮かぶのは、やはり富士山や桜など日本を代表する場所になるものです。ですから来日すると、多くのお客様が「富士山は見たい!」と口を揃えます。
そのため、さまざまなツアーの行程で、富士山周辺の観光が人気になります。
しかしこの「富士山」、外国人観光客にとって大人気なのは当然として、ある意味ガイド泣かせの場所でもあるんです。
ネックになるのはなんといっても天候です。これほど天気に左右される場所もありません。

もし富士山がきれいに見えていたら、お客様はまず大満足してくださいます。途中で渋滞があろうが人混みに巻き込まれようが、富士山が見られれば大満足です。

しかし良い日が有れば悪い日もあります。
仮に悪天候の中でも、奇跡的に富士山の頂上がちらりとでも見えたら「大勝利」なわけですが、そんな都合良くいくことはまれです。
大体の場合、通訳ガイドは富士山が見える方向を指さし、必死にお客様の落ちたモチベーションを上げようと努力することになります。

通訳ガイドとして活動する中で、富士山には数百回行っており、地理や歴史なども説明することができるようになっています。富士山の標高やどんな山なのかということはもちろん、なぜ富士山と呼ばれているのかなどについて竹取物語を絡めて説明したり、日本の天皇家の成り立ちなども含めて神道との関わりなどに触れたりと、さまざまなネタを用意しています。
その他、富嶽三十六景や山岳信仰の富士講などまで、お客様の興味によって話す内容は変えています。

富士登山は簡単じゃない

通訳ガイドの仕事としては、富士山を登山するツアーもあります。基本的には富士吉田口五合目から、山岳ガイドの方などとお客様と一緒に登る仕事です。

東京を朝早くに出発し、富士吉田口五合目に到着。昼食と休憩の後に、登山を開始し、夕方に7合目の山小屋に到着。
早めの夕食を取って仮眠し、大体22時に起床、暗闇の中、頂上をめざして朝4時くらいに山頂に到着します。
御来光を待ち、希望者はお鉢廻りに出発。御来光後の朝5時には山頂を出発し、約4時間で下山。その後バスにて温泉施設で昼食入浴休憩後に都内へと帰るという行程になります。

このツアーは非常に人気もあるツアーなのですが、苦労も非常に多いツアーになります。
まずは天候。登山ですので、かなり天候に左右され、そこは山岳ガイドの方の判断で、ツアー自体がキャンセルになったり、山小屋に到達した段階で終了する場合などもあります。

悪天候の雨だけでなく、独立峰ということで強風の為に中止になることもよくあります。天候ばかりはどうしようもないことなのですが、中止の説明をお客様にする時は非常に緊張します。

天候にの次に大変なのが、お客様のツアーに対する理解度の差です。
富士山は非常に沢山の方が登る山のため、お客様の中には軽装(Tシャツにサンダル)などで来る方もたまにいらっしゃいます。そのような場合、お客様に対し、富士登山の環境(不安定な足場を登らないといけないこと、天候が不安定で雨具が必須であること、山頂の気温は夏場でも氷点下であることなど)を説明し、装備を購入又はレンタルしてもらいたい、無理な場合はツアーへの参加を断るという強い判断をしなければならない場合もあります。
体力面でも明らかに無理な方には、山岳ガイドの判断のもと、「あなたはこれ以上登らないほうが良いと判断します。これ以上はあなた自身にもツアーの他の参加者にも危険なので、もし登山を続けたい場合はツアーを離団していただきます」など強く言わなければならないこともあるのです。

お客様には、「基本的には登るのに体力の3割、降るのに体力の7割が必要だ」という説明をしてから登るのですが、やはり一生に一度しかないチャンスだということもあり、無理をして登り、下りで身体(主に膝など)に限界を迎えてしまう方も多くいらっしゃいます。
その場合は山岳ガイドと協力して、7合目まで下山させ、そこからは馬に乗って(5万円です)、5合目まで下りるということをしなければならないこともあります。
もちろん通訳ガイド本人の体力も非常に消耗する仕事です。それでもシーズン中に何回も登るガイドさんもいて、私の同僚には14回登った人もいます。

富士登山ツアーでの御来光。
富士山の豆知識

馬を使って下山できると紹介しましたが、それ以外でも普通の観光地などとは異なることがいくつかあります。
まずはトイレです。富士山ではバイオトイレ(おがくずを使ったトイレ)を使用する場合、有料で100円〜300円となり、標高が上がるにつれて料金は上がっていきます。
富士吉田口がツアーで使われるのは、登山道に山小屋が多く点在し緊急事態などに対応しやすく、水などを途中購入する事が可能だからです。これらの商品についても標高が上がると値段が上がって行きます。

また人気なのは、登山開始時に買える金剛杖で、木製の杖に道中の山小屋で焼印をもらいながら登ることもできます。

このように苦労も多い大変なツアーですが、達成感はすばらしいものがあります。
7月から本格的なシーズンが始まります。興味がある方は募集があると思いますので、チャレンジしてみてはいかがでしょうか?

福田  誠
福田 誠Makoto Fukuda

全国通訳案内士。2013年全国通訳案内士資格を取得後、通訳ガイドとして個人客から団体まで幅広く日本全国を案内し、通訳業務も含めて現在に至る。新人研修ほか各種の通訳ガイド関連研修の講師も務める。