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2023.05.20 UP

第1回 アメリカ カリフォルニア州
ブラッドリー純子さん(仕事編)

第1回 アメリカ カリフォルニア州<br>ブラッドリー純子さん(仕事編)
※『通訳・翻訳ジャーナル』2020年秋号より転載

海外在住の通訳者・翻訳者の方々が、リレー形式で最新の海外事情をリポート! 海外生活をはじめたきっかけや、現地でのお仕事のこと、生活のこと、また、コロナ下での近況についてお話をうかがいます。

ブラッドリー純子さん
ブラッドリー純子さんJunko Bradley

会議通訳者。大阪出身、アメリカ カリフォルニア州在住。日本で美大を卒業後、カリフォルニアの大学で経営マネジメントを学ぶ。現地大手企業で社長秘書、社内通訳・翻訳者として計6年間勤務した後、フリーランス翻訳者として数千件のプロジェクトを手掛ける。2009年にランゲージサービス会社EJ Expertを設立。現在は会社経営の傍ら同時通訳者として活躍し、同社主催のWeb通訳講座の講師も務める。ブログ:https://ameblo.jp/tsu-honyaku/

社会人留学から始まった海外生活

大手IT企業の本社が集結するシリコンバレーから、北東に200㎞ほど離れたカリフォルニア州のサクラメントで、根っからの起業家のアメリカ人の夫、ハーフなのに和風顔で関西弁バイリンガルの息子(ケイデン・17歳)、仕事で忙しい母親に代わって家事をしてくれる「おしん」娘(アンジェラ・14歳)と暮らしています。

日英通訳・翻訳者として働いて約15年になりますが、本格的に英語を学び始めたのは、日本で美大を卒業したあとでした。美大の卒業旅行でヨーロッパに行って美術館巡りをしたとき、世界共通語の英語が話せなければ、いろいろな可能性が閉ざされてしまう、と肌で感じたことが、その後アメリカへ留学することを決めたきっかけです。

日本で正社員の仕事とバイトを掛け持ちして正規留学のための資金を貯め、1993年にカリフォルニアに渡って、大学の経済学部で4年間経営マネジメントを学びました。カリフォルニアを選んだのは、日本から直行便があること、海があって気候が温暖なこと、経済が発展しているので就職するには困らないだろうと思ったからです。最初は卒業したら日本に帰国する予定でしたが、結婚して家族ができたので、米国市民権を取得してずっとこちらに住んでいます。

ラスベガスで毎年開かれるCES(Consumer Electronics Show)でも同時通訳をつとめる。世界の最新技術が集まる電子機器の見本市。

通訳の仕事における日本との違い

半年に一度、日本への出張で通訳の仕事をしたり、エージェントとして日本在住の通訳者を起用してきた経験から、アメリカの通訳業界には、日本との大きな違いが3つあると感じます。

①会議通訳者の頭数が少ない。

繁忙期になると同時通訳レベルの日英通訳者は皆多忙を極め、空いている人がおらず通訳者に欠員が出て会議が行えないケースが多発します。これは、私がプロ養成講座をスタートして優秀な後輩を育てようと思った一番の理由でもあります。

②事前情報や資料をきちんと確保してくれない場合がある。

かなり前ですが、日本の自動車メーカーA社の大型カンファレンスの同時通訳の業務がありました。「新車発表で機密情報なので資料は事前共有できない」と言われ、とにかく一生懸命リサーチと事前準備をして臨みましたが、当日会場に行ってみると、何とA社ではなく「GM(ゼネラルモーターズ)」と大きな看板が。一気に脱力感に襲われたという、信じられないようなハプニングも経験しました。

③通訳レートと人数体制の違い。

特に西海岸、NYなど東海岸、シカゴなどの大都市では、日本国内に比べると通訳レートが平均3~4割高と言われています。やはりアメリカでは専門職の平均所得が高いこと、また大都市の生活コストが高騰していることも理由だと思います。ただし通訳者の人数体制は、日本だと逐次通訳は終日の場合は2名体制を基本とすることが多いようですが、米国では1名体制です。同時通訳でも半日なら1名で…という場合も無くはありません。

シリコンバレーのアップル本社・アップルパークのカフェテリアは解放感たっぷり。

大変だといつも感じるのは、移動距離が半端なく長いこと。ご存じのように国土が広いので、飛行機での移動が多くなります。また国際会議などの会場がかなり広く、歩く距離が長いので、バッグの中に折りたためるフラットシューズを入れています。エントランスから会議場まで徒歩20分かかるホテルもあるくらいです。

住んでいるのは中都市の州都サクラメント郊外ということもあり、日本企業は少ないですが、官公庁関連の会議や視察が定期的にあります。日本人はけっこう住んでいますが、英日会議通訳者は私だけなので、サクラメントで通訳を依頼するともれなく私が付いてきます(笑)。

※ 写真/ブラッドリー純子さん提供

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