第98回 wet-ink/ 時代遅れになりつつあるもの?

ネイティブが使う粋な英語表現を現場からお届け! グローバル化が進み、英語が飛び交う製薬業界。製薬会社で活躍している社内通訳者が、グローバルビジネスの現場で流行っていたり、よく耳にしたりする英語表現を紹介します。

日本ではまだまだ手書きのサインや印鑑の押印が一般的ですが、世界の傾向としては署名はデジタル化の方向に進んでいます。そのような中、逆に署名は手書きであることを明確化する必要がでてきたのでしょうか、手書きのサインをwet-ink signatureと言うようになりました。手書きでサインをするとインクが濡れて(wet)いることに由来した表現でしょう。

このwet-ink signatureに加えて、 wet signatureという表現も同じ意味ですので、合わせて覚えてしまいましょう。wet-ink signatureの場合、“wet-ink”は形容詞的に使用されていますが、単体で名詞として“a wet-ink”と使われているのを通訳中に耳にしたことがあります。また、副詞的にsign in wet-ink(手書きで署名する)というような形で使われることもあるようです。

蛇足ですが、書類への署名をJohn Hancockと表現することがあるのをご存知でしょうか。アメリカの独立宣言書(Declaration of Independence)の署名の中でJohn Hancock氏のものが一番大きく目立ったため、彼の名前がそのまま名詞化されたそうです。アメリカの企業で働いていた時に事務の方から“Give me your John Hancock.”(サインお願いします)と言われたことがありますので、アメリカ的な表現として覚えておいて損はないと思います。(ハンコック=ハンコ=サイン、と覚えてもいいかも知れません笑)

ちなみに、英語の契約書の署名欄の横に“Please print”“Print name”と書かれていることがあります。 Printには名詞形で「活字体」という意味があることから分かるように、これは「ブロック体で名前を書いてください」という意味です。サインだけでは名前が読み取れないことがあるからでしょう。決して「印刷してください」という意味ではないので注意しましょう。

具体的には次のように使えるでしょう。

A: Please place your wet-ink signature on the contract.
B: Can you get me a pen?

A:契約書に手書きの署名をお願いします。
B:ペンを貸していただけますか?

ぜひ使ってみてください!

会議通訳者・翻訳者 森田系太郎(もりた・けいたろう)/日米の大塚製薬を経て、現在は製薬CROのシミック㈱の通訳者 兼 フリーランス通訳者。上智大学(国際関係法[学士])、立教大学(異文化コミュニケーション学[修士]、社会デザイン学[博士])、モントレー国際大学院(翻訳通訳[修士]*会議通訳専攻)を経て現職。編著書に『環境人文学 I/II』(勉誠出版、2017年)がある。日本会議通訳者協会(JACI)理事で、JACIのホームページでコラム「製薬業界の通訳」を連載中。ディプロマット通訳スクール・講師。2020年4月からは立教大学院で兼任講師(会議通訳、環境人文学)も務める。

グローバルビジネス現場の英語表現 バックナンバー

第1回 get clarity on/around
第2回 the ask
第3回 deep dive
第4回 tee up / ゴルフの話ではなくて
第5回 razor focus / 剃刀のように鋭く!
第6回 with regard to / regardingはあまり使わない?
第7回 bring … up to speed / 新入りがやってきたら……
第8回 on the same page / われわれは同じページの上にいる!?
第9回 deck / ビジネスに必須のツールといえば?
第10回 incremental / ファイナンス会議で頻出
第11回 functional group / 機能集団=部署
第12回 resident / IT関連の会議で頻出!
第13回 moving forward / in the near futureより柔らかい表現は?
第14回 turn … around / ~を完成させる
第15回 home office / 自宅のようなオフィスとは?
第16回 regret / 残念がる人
第17回 a good segway into / あの電動立ち乗り二輪車ではなく…
第18回 be cognizant of / 他にも言い方はたくさんありますが
第19回 webinar / ウェブ+セミナー
第20回 walk through / プレゼンの常套句
第21回 buy-in / 株の買い付けではなく……
第22回 agnostic / 直訳は「不可知論者」ですが……
第23回 kick off / サッカーの話題ではなく……
第24回 element / 困ったときに頼れる単語
第25回 granularity / 物理学では「粒度」ですが
第26回 heavy lifting / 重量挙げ?
第27回 landscape /「ビジネスの風景」とは?
第28回 show-stopper / ショーを止めるもの?
第29回 COB / 「COBまでに送る」とは?
第30回 OOO / ゼロが3つ、その意味は?
第31回 ecosystem / ビジネス版「生態系」とは
第32回 a bit about / 猫も杓子もこの挿入句
第33回 the beauty is… / 美は強さ?
第34回 C-suite / Cをまとめて
第35回 look and feel / 「見て感じろ!」ではないです
第36回 as needed basis / 「必要に応じて」ぜひ使ってみてください!
第37回 readout / コンピューター分野では「読み出し」ですが
第38回 cadence / 「歩調」がビジネスで使われると
第39回 moving parts / 「可動部分」がビジネスで使われると
第40回 strawman / 藁人形たたき?
第41回 chime in / チャイムを鳴らして、ちょっと失礼します
第42回 park / 物事をいったん「駐車」する
第43回 firm up / 日本語でも英語でも「固める」
第44回 put a spin on / 物事にもスピンを効かせろ!
第45回 enabler / 実現を可能にしてくれるもの
第46回 delta / 三角州ではなくて………
第47回 at the end of the day / 「一日の終わり」ということは?
第48回 what’s your take? / あなたの見解は?
第49回 housekeeping announcement / 家事のことではなくて……
第50回 nice-to-have / ♪こんなこといいな できたらいいな
第51回 shoot an email / メールを撃つ!!
第52回 space / 「宇宙」や「スペース」以外の意味も覚えましょう
第53回 silo / 「倉庫」ではなく……
第54回 low-hanging fruit / 低いところにぶらさがっている果物?
第55回 one-pager / 資料は1ページにまとめましょう
第56回 workaround / 最善策がうまくいかない場合は
第57回 a lot on one’s plate / 「忙しそうだね」を英語で言うと?
第58回 true-up / 会計用語として使われます
第59回 AOB / アジェンダに見られる略語
第60回 pull-through / 最後まで引っ張りぬけ!!
第61回 technical glitch / ウェブ会議でよく起こる現象
第62回 go or no-go / そのまま進める? やめる?
第63回 PTO / 有給休暇を頂いております
第64回 take-home message / 自宅に持ち帰ってほしいメッセージ
第65回 undershooting / 目標を達成できませんでした……!
第66回 double down on / リスクを取って賭けに出る!
第67回 connect / つながりを求めて……
第68回 offline / 「オフライン」は電話会議にも使える
第69回 KSF / 成功要因
第70回 high-level / 「ざっくりと」は英語でなんて言う?
第71回 face-to-face / 顔を突き合わせて
第72回 one-on-one / ビジネスにおけるワン・オン・ワン?
第73回 pain point / ビジネスの「痛点」
第74回 apples-to-apples / リンゴとリンゴ??
第75回 check a pulse on / ビジネスの場面で脈を取る
第76回 Nice to e-meet you / メールで「はじめまして」は英語で何と言う?
第77回 Happy holidays! / 宗教の多様性に配慮した表現
第78回 burning question / 燃える質問
第79回 Have a good one / 挨拶に困ったらこの表現
第80回 iterative approach / 段階を踏んだアプローチ
第81回 BYOD / 私用のパソコンを使用可能
第82回 learning curve / ビジネスにおける「学習曲線」
第83回 sunset / システムを日の入りさせる
第84回 fit / 使用用途の広い“fit”
第85回 base / ベースは基盤です
第86回 ADI / 定例会議で頻出の用語
第87回 catch all / 「すべてを捕らえる」とこうなります
第88回 new hire / 動詞が名詞化されています
第89回 biobreak / 直截的な表現が避けられます
第90回 What’s your read? / takeの代わりにreadです
第91回 play devil’s advocate / 悪魔の代弁者を演じる?
第92回 south of / ~の南にあるとは?
第93回 Kr / 何の略か分かりますか?
第94回 home-grown / 直訳すると「自家栽培の」ですが
第95回 illustrative / 単なる事例であることを伝える語
第96回 redline / Wordの変更履歴から派生した言葉?
第97回 batch/1回分にまとめるときに使える単語