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2023.05.16 UP

第98回 wet-ink/ 時代遅れになりつつあるもの?

第98回 wet-ink/ 時代遅れになりつつあるもの?

ネイティブが使う粋な英語表現を現場からお届け! グローバル化が進み、英語が飛び交う製薬業界。製薬会社で活躍している社内通訳者が、グローバルビジネスの現場で流行っていたり、よく耳にしたりする英語表現を紹介します。

日本ではまだまだ手書きのサインや印鑑の押印が一般的ですが、世界の傾向としては署名はデジタル化の方向に進んでいます。そのような中、逆に署名は手書きであることを明確化する必要がでてきたのでしょうか、手書きのサインをwet-ink signatureと言うようになりました。手書きでサインをするとインクが濡れて(wet)いることに由来した表現でしょう。

このwet-ink signatureに加えて、 wet signatureという表現も同じ意味ですので、合わせて覚えてしまいましょう。wet-ink signatureの場合、“wet-ink”は形容詞的に使用されていますが、単体で名詞として“a wet-ink”と使われているのを通訳中に耳にしたことがあります。また、副詞的にsign in wet-ink(手書きで署名する)というような形で使われることもあるようです。

蛇足ですが、書類への署名をJohn Hancockと表現することがあるのをご存知でしょうか。アメリカの独立宣言書(Declaration of Independence)の署名の中でJohn Hancock氏のものが一番大きく目立ったため、彼の名前がそのまま名詞化されたそうです。アメリカの企業で働いていた時に事務の方から“Give me your John Hancock.”(サインお願いします)と言われたことがありますので、アメリカ的な表現として覚えておいて損はないと思います。(ハンコック=ハンコ=サイン、と覚えてもいいかも知れません笑)

ちなみに、英語の契約書の署名欄の横に“Please print”“Print name”と書かれていることがあります。 Printには名詞形で「活字体」という意味があることから分かるように、これは「ブロック体で名前を書いてください」という意味です。サインだけでは名前が読み取れないことがあるからでしょう。決して「印刷してください」という意味ではないので注意しましょう。

具体的には次のように使えるでしょう。

A: Please place your wet-ink signature on the contract.
B: Can you get me a pen?

A:契約書に手書きの署名をお願いします。
B:ペンを貸していただけますか?

ぜひ使ってみてください!

森田系太郎
森田系太郎Keitaro Morita

会議通訳者・翻訳者。日米の大塚製薬を経て、現在は製薬CROのシミック㈱のシニア通訳者 兼 フリーランス通翻訳者。上智大学(法学[学士])、立教大学(異文化コミュニケーション学[修士]、社会デザイン学[博士])、モントレー国際大学院(翻訳通訳[修士])卒。編著書に『環境人文学 I/II』(勉誠出版、2017年)がある。日本会議通訳者協会(JACI)理事で、JACIのホームページでコラム「製薬業界の通訳」を連載中。立教大学・兼任講師/研究員、英検1級・全国通訳案内士・国連英検特A級保持者(外務大臣賞)。 趣味は小6から続けているテニス。