
第10回・最終回 「コミュニティ通訳」をとりまく海外の動き
前回のコラムで「コミュニティ通訳」について少しご紹介いたしましたが、今回は海外での取り組みについてご説明したいと思います。なおここでは広義の意味での「コミュニティ通訳」で、いわゆるsocial/public services interpretingも含んで説明をしています。
コミュニティ通訳の
ISOが存在する
近年、翻訳や通訳について国際標準化機構ISOが国際規格作成にむけて活動をしているのはあまり知られていませんが、通訳については2014年12月に「コミュニティ通訳のガイドライン」(ISO13611)が発行しています。
このガイドラインでは、コミュニティ通訳を明確にプロフェッショナルでなくてはならないと定め、場面設定においては、学校を含む行政機関、医療機関、保険や不動産関連、各種イベントや祭典、災害緊急時などが含まれています。
また必要な能力の規定も細かく規定されていますが、なかでも手続書類などの説明を想定しているのか sight-translationの能力や、問題解決に尽力すること、コミュニケーションを円滑に進める能力など、特徴的な記述がありました。
詳細についてはISOのホームページのカタログのページから、発行済みの規格は購入ができますので、ご興味のある方はアクセスしてみてください。
現在ではコミュニティ通訳から派生して、司法通訳、医療通訳についても規格を作っていくという活動が継続されており、また会議通訳についても議論がされています。
特に司法通訳については、世界人権宣言を元に欧米を中心に、国籍を問わず公平な裁判を受ける権利についての法律や宣言などの公式文書が存在しており、その中で司法通訳・翻訳についての規定が定められている状況です。
医療についてもWHOを中心に患者の権利についての規定があり、各国の患者の権利に関する規定等を基に医療通訳の制度や認証をしている国や自治体があります。
多言語社会であるEUを始め、移民が多いオーストラリア、カナダ、アメリカなどは現場の必要性から議論が進んで行ったのだと思います。南米ではアルゼンチンやコロンビアなど
の取り組みも進んでいるようです。
先日、ISO関連の国際会議に参加したときに、上記の各国の取り組みを具体的に伺うことができたのですが、予想以上に中国が国際規格に積極的に取り組み、通訳や翻訳教育に力をいれていることも認識できました。
コミュニティ通訳の存在が
認知されていない日本
一方、日本の現状はというと、そもそも通訳全般について認証制度はなく、国家試験や資格制度もなく、欧米中韓のように大学で通訳・翻訳と明示された学位をとれるところがほとんどありません。さらにいえばコミュニティ通訳の存在自体が一般的に認知されていないという状況です。
その一方で、政府は新たな在留資格を設け、外国人労働者の流入拡大を認める方針を示していて、50万人超の受け入れ増を見込んでいます。また訪日外国人旅行者もどんどん増加していて、今年の上半期で1500万人を突破し年内に3000万人台になる勢いです。
企業内や企業間のビジネス通訳や国際会議・セミナーの会議通訳はグローバル経済を牽引し、日本が国際社会の一員としてメッセージを発信していく大切な役割を担っていることは言うまでもありませんが、個人として訪日している、また在留している外国人の方々が日本でどういう体験をするかは、日本全体のイメージを左右することになり、結果的にはビジネスにおいても大きな影響が出てくると思います。
彼らの生活をサポートするコミュニティ通訳は、公平で安心に日本で過ごせるためのインフラとしても育成や確保に真剣に取り組んでいくべき課題だと思っています。
通訳を目指している皆様や、すでに通訳者として活躍している皆様がキャリアの一つとして今後選択できるように、私も微力ながら所属している一般社団法人通訳品質評議会で活動を進めて行きたいと思います。
今回でコラムは終了いたしますが、稚拙な文章にお付き合いいただきありがとうございました。