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2023.05.01 UP

『シスター 夏のわかれ道』(字幕翻訳:島根磯美さん)

『シスター 夏のわかれ道』(字幕翻訳:島根磯美さん)

話題の新作映画を、字幕または吹替翻訳を手がけた映像翻訳者の方が紹介します!


『シスター 夏のわかれ道』
公式Webサイト
監督:イン・ルオシン 脚本:ヨウ・シャオイン
出演:チャン・ツィフォン、シャオ・ヤン、ジュー・ユエンユエン、ダレン・キム
2021年/中国語/127分/スコープ/カラー/5.1ch/原題:我的姐姐
配給:松竹 宣伝:ロングライド
© 2021 Shanghai Lian Ray Pictures Co.,Ltd. All Rights Reserved
11月25日(金) 新宿ピカデリー、 ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほか全国公開

中国で「一人っ子政策」という産児制限が行われていたことはよく知られていると思うが、近年の急速な少子高齢化のため2015年には2人目が、そして2021年には3人目の出産も容認されるようになったことは、ご存じだろうか?

本作の主人公である姉と弟の年齢が離れている背景にはそういう事情がある。姉は男子を望んでいた両親から愛された実感がなく、早くから親元を離れて自活。医者になるため働きながら勉強していたが、疎遠だった両親が突然の事故で他界、残された幼い弟の養育を押しつけられて反発するも、伯母は「私も弟であるあんたの父親のために自分の進学を諦めた。姉とはそういうものよ」と諭そうとする…。

とにかく弟を演じる子役がすごい。姉とのケンカシーンでは腹立たしいほどの傍若無人ぶりを発揮したかと思うと、姉に見捨てられまいと努力する姿は健気で切なく、見る者の涙を誘う。弟を演じるダレン・キム君は、これがデビュー作とは思えないほどのリアルな演技で観客の心を揺さぶるのだ。

だが本作は、決して子役が売りの「お涙頂戴映画」などではない。主人公を取り巻く人物――マージャンに明け暮れるバツイチの叔父、家族の世話に奔走する伯母、母親に逆らえない恋人、息子を産みたい妊婦、弟を養子に欲しがる富裕層の夫婦など、事情を抱える大人たちも丁寧に描かれ、姉としての選択を迫られる主人公の葛藤に厚みを加える。

中国ならではの背景を持つ作品ではあるが、さまざまな場で男女格差が払拭しきれない今の日本にも、この物語が「刺さる」人は少なからずいるのではないだろうか。ラストシーンで主人公アン・ランが流す涙の意味を、誰かと語りたくなる1本である。

※ 通訳翻訳ジャーナル2023年冬号より転載

島根磯美
島根磯美

中国語映像翻訳者。日本大学芸術学部演劇学科卒。主な字幕翻訳作品に中国映画『少年の君』『ゴッド・スレイヤー 神殺しの剣』『画皮 あやかしの恋』、台湾映画『セデック・バレ』『共犯』『星空』、中国ドラマ『如懿伝(共訳)』、『斗羅大陸(共訳)』『天龍八部(共訳)』などがある。