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2023.05.25 UP

第6回 結局、学ぶとしたら何語がいいのか

第6回 結局、学ぶとしたら何語がいいのか

英語のみならず、独語、仏語、西語、伊語、中国語を独学で身につけ、多言語での読書を楽しんでいるという作家・翻訳家の宮崎伸治さんに、多言語学習の魅力を余すところなく語っていただきます!

日本人にとって簡単・学びやすいのは何語なのか

どうやって学ぶ言語を選ぶか?

前回は私たち日本人がどういう理由で外国語を学ぶのかを考察してみましたが、今回は、英語以外の外国語を「手段言語(本来はその言語にもその言語を話す人々にも関心はないが、何かの手段を達成するための言語)」として学ぶとしたら何語を学ぶのがいいのかという観点から考えてみましょう。

さすがに興味が湧いた言語なら何語でもいい、というわけにはいきませんよね。一時的に興味が湧いたからという理由で始めるのが悪いわけではありませんが、一つの外国語をそれなりに読んだり書いたりできるようになるまでには莫大な時間と労力がかかるので、モチベーションを長く維持しようと思えば、自分なりの基準をもって学ぶ言語を選ぶ必要があります。

では、その基準とは何でしょうか。人によって基準は異なるでしょうが、ここでは私個人の基準をご紹介したいと思います。多言語を10年近く学習し続けてきた私がようやく辿り着いた基準です。

私が英語以外の外国語を「手段言語」として学ぶ際の基準は以下の4つです。言い換えれば、この4つの基準をクリアしていなければ、私には手が出ないというのが正直なところです。私の基準をみなさんに押しつけるつもりはありませんが、まだ何語を学ぶかを迷われている方に参考にしていただければと思います。

それでは私が重要だと思う基準から順にご紹介していきましょう。

学ぶ言語を決める際のポイント


(1)初心者用の文法書が入手できること
 これは私にとっては最も重要な基準です。というのも初心者用の文法書なしに、いきなり読めたり聴けたりできるようになるとは考えにくいからです。挨拶程度の会話なら、会話でよく使うフレーズだけ集めたものでも事足りるかもしれませんが、やはり内容がしっかりしている本を読んだり動画を視聴したりできるようになるには、ある程度の文法知識はどうしても必要です。
 日本語で書かれた文法書が入手できれば、それが最適なのですが、英語で書かれた文法書でも苦にならないという人であれば、英語で書かれた文法書が入手可能か確認してみるといいでしょう。

(2)本国から出版されている音源(CDやMP3等)付きの書籍が入手しやすいこと
 ここでいう「本国から出版されている書籍」とは、例えば、フランス語の場合は、フランスやベルギーなどフランス語が母国語または公用語である国から出版されている書籍という意味です。日本の出版社から出版されているフランス語の学習書で勉強するのが悪いわけではありませんが、そのほとんどはフランス語を学習すること自体が目的となっているため、面白さは二の次になっています。その点、“本国”の出版社から出版されている書籍は、言語を学習すること自体が目的になっているわけではないので、内容自体が面白いものが多いのです。その面白さを享受することこそ外国語学習の醍醐味だと思うのです。
 ただ、私がさらに条件を付けたいのは、音源(CDやMP3等)が付いている書籍があることです。私はものぐさな人間なので、外国語の書籍がいかに面白いものであっても、音源の手助けがないとなかなか読み進められないのです。しかし音源さえあれば、目と耳の両方から情報が入ってきますので、断然理解しやすくなるので、モチベーションが維持しやすいのです。しかもこの方法で学習を続ければ読解力だけでなくリスニング力も向上しますので、のちのち動画も視聴しやすくなるという利点もあります。

(3)日本で受けられる検定試験があること
 検定試験に合格することそのものを目的にするわけではなくても、やはり自分の実力の伸びが分かれば学習意欲が高まるものです。実際、私の場合、それが大きな励みとなっています。そういうわけで、私がイタリア語やスペイン語の学習を開始する際、日本で受けられる検定試験があることを確認してから学習を開始したのでした。ただ、検定試験がなくても学習意欲を維持できるという人にとっては、この基準は不要です。自分なりにモチベーションを維持する方法を持っている人は、自分の方法でモチベーションを維持すればいいでしょう。

(4)電子辞書が存在すること
 紙の辞書を引くのは時間がかかります。電子辞書の便利さを覚えてしまうと、なかなか逆戻りできないものです。何を隠そう、出版翻訳家として数十冊の翻訳書を出版してきた私も、紙の辞書を引くことは希でした。逆に言えば、それくらい電子辞書の恩恵は大きいということでもあります。あくまで私の基準にすぎませんが、電子辞書が存在していない言語だとちょっと手が出にくいなと感じます。

今回は、英語以外の外国語を「手段言語」として学習するとしたら何語を学ぶのがいいのかという観点から、私の基準を4つご紹介してみました。せっかく学習を開始するのであれば、最終的に読んだり聴けたりできるようになりたいものです。そのためには長く続けることが必要ですが、そこまで考えた上で自分なりの選考基準を持つといいでしょう。

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作家・翻訳家 宮崎伸治
作家・翻訳家 宮崎伸治Shinji Miyazaki

著書に『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』(三五館シンシャ)などがある。ひろゆき氏など多くのコメンテーターに対して翻訳業界の現状を語る番組に出演した際の動画が無料で視聴できる。https://abema.tv/video/episode/89-66_s99_p3575(ABEMA TV)。また「大竹まことのゴールデンラジオ」に出演したときのようすが、次のリンク先のページの「再生」ボタンを押すことで無料で聴くことができる。http://www.joqr.co.jp/blog/main/2021/03/110.html