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新刊翻訳書を、訳を手がけた翻訳者の方が紹介! 書籍の読みどころを語っていただきます。
インド発! 替え玉受験を発端とする青春ミステリ
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『ガラム・マサラ!』
ラーフル・ライナ 著
武藤陽生 訳 文藝春秋
(2023年10月24日発売)
出版社HP
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【訳者が語る】
『ガラム・マサラ!』はラーフル・ライナというインド人作家のデビュー作です。全国共通試験の替え玉受験を生業にする主人公が、図らずも全国トップの成績を取ってしまったことから予想外の誘拐事件に巻き込まれ、それがジェットコースターさながらの誘拐に次ぐ誘拐へと連鎖していきます。
作者はデビュー時点で二十八歳だったそうで、貧困、格差、不正といったインドの深刻な問題が、若者ならではの勢いと皮肉によって、どこかユーモラスに描写されているのが大きな特徴の青春ミステリです。
作中、ビニール包装されたパウロ・コエーリョの本を売る浮浪児が出てくるくだりがあるのですが、自分がインドをバックパック旅行したとき、まさにパウロ・コエーリョの『アルケミスト』を売っている子供を目撃したことがあります。いったいあれはなんだったのだろうと、十六年ぶりに懐かしく思い出しました。
そんなふうに、「ああ、インドって確かにこんな感じ!」が満載の本作、訳者としては独特の余韻を残すラストが気に入っています。
※ 通訳翻訳ジャーナル2024年WINTERより転載
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むとう・ようせい/英日ゲーム・出版翻訳者。エイドリアン・マッキンティ「刑事ショーン・ダフィ」シリーズ、セシル・S・フォレスター『駆逐艦キーリング』、マイクル・Z・リューイン『父親たちにまつわる疑問』(すべて早川書房)などを翻訳。『Va-11 Hall-A(ヴァルハラ)』『ディスコ エリジウム』(監修)をはじめ、多数のゲームのローカライズにも携わる。