新刊翻訳書を、訳を手がけた翻訳者の方が紹介! 書籍の読みどころを語っていただきます。
〈スパニッシュ・ホラー文芸〉を牽引する作家による幻想譚
『救出の距離』
サマンタ・シュウェブリン 著
宮﨑真紀 訳 国書刊行会
(2024年9月21日発売)
出版社HP Amazon
【訳者が語る】
舞台はアルゼンチンの首都ブエノスアイレス郊外。死にかけていると思われる女性アマンダと、その枕元にいるダビという少年との会話で、物語は終始進んでいく。
ダビは、アマンダがなぜ死の床に就くことになったのか探るため、彼女に記憶を遡るよう促す。そうしながら、娘のニナがどこにいるのか心配しつづけるアマンダ。どうやらアマンダはバカンスでそこに来ていて、隣に住むカルラという女性が事の次第に関わっているらしい。ダビはカルラの息子で、幼い頃に事故でやはり死にかけたことがあり、呪術医の力で一命をとりとめたが、以来人格が変わってしまったという。たしかに、ダビの口調はおよそ9歳とは思えない奇妙なものだった。やがて、その土地にまつわるおぞましい事実がしだいに明らかになっていき……。
現在と過去、さらには視点や空間さえも自在に超え、どこまでが現実でどこまでが幻覚か判然としないなか、物語に漲る不穏な緊張感は、読者を恐ろしくも悲しいラストへと否応なく導きます。この張りつめた空気と不安、そして混沌こそが、この作品の真骨頂なのです。
〈スパニッシュ・ホラー文芸〉第3弾となる本書で、ぜひまた新たな恐怖と才能に出会ってください。
※ 通訳翻訳ジャーナル2025 WINTERより転載
みやざき・まき/スペイン語圏文学・英米文学翻訳者。東京外国語大学外国語学部スペイン語学科卒。フィクションもノンフィクションも訳す。エルビラ・ナバロ『兎の島』、マリアーナ・エンリケス『寝煙草の危険』(ともに国書刊行会)と、やけにホラーづいているこの頃。最新の訳書はラウラ・フェルナンデス『ミセス・ポッターとクリスマスの町』(早川書房)。