
新刊翻訳書を、訳を手がけた翻訳者、もしくは担当編集者の方が紹介! 書籍の読みどころを語っていただきます。
億万長者の邸宅で働く 現代の使用人の労働環境とは
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『富豪に仕える 華やかな消費世界を支える陰の労働者たち』
アリゼ・デルピエール 著
ダコスタ吉村花子 訳
新評論(2023年10月27日発売)
出版社HP
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【編集者が語る】
億万長者のゴージャスな生活は、「フルタイムの使用人」の存在なくして一日もなりたちません。その裏側を、雇用者・被雇用者双方への綿密なインタビューで明らかにしたフランス社会学の本です。といってもお堅い学術書ではなく、『ヴェルサイユの宮廷生活』など話題作を次々に手がけている訳者の卓越した訳業で、とても読みやすく仕上がっています。
大富豪の邸宅は、かなりの確率でブラック職場です。24時間365日におよぶ拘束、無体な(ときに意味不明な)要求の数々、親密さと一体の支配に身も心も削られていきます。しかし、映画『パラサイト』や『逆転のトライアングル』で描かれたような「逆転劇」が使用人たちの夢なのかといえば、ことはそう単純ではないようです。
特殊な主題を扱いながら、読みすすむうちに労働・雇用、ケア、ジェンダー、「人種」など、いま最も議論を要する問題への思考が自然と深まる仕掛けが秀逸です。ぜひご一読ください。
(新評論・吉住亜矢)
※ 通訳翻訳ジャーナル2024年WINTERより転載