通訳者・翻訳者の本棚を拝見し、読書遍歴について聞くインタビューを特別掲載!
第一線で活躍するあの人はどんな本を読み、どんな本に影響を受けたのか。本棚をのぞいて、じっくりとお話を伺います。
考えることを止めないために
本を読み続けていきたい
スペイン語翻訳家。東京外国語大学スペイン語学科卒。バルセロナ自治大学修士課程修了。出版社勤務を経て、翻訳家に。ミランフ洋書店店主、東京外国語大学スペイン語学科非常勤講師。『くろは おうさま』(サウザンブックス社)、『ちっちゃいさん』(講談社)、『ペドロの作文』(アリス館)、『見知らぬ友』(福音館書店)など訳書多数。
1冊のYA小説が道を示してくれた
和書2千冊に対して、洋書は3千冊。「自炊(電子化)」によって1千冊ほど減らしてなお、仕事場の書棚には絵本や児童書の原書がひしめき合う。これとは別に隣室では、大事に保管された販売用の原書たちが約2千冊、誰かの手に渡るときを静かに待っている。
「スペインや、メキシコのグアダラハラ国際ブックフェアに行ったときに、まとめ買いすることが多いですね。2019年のグアダラハラではスーツケースに2つ、50 キロ分の本を買いました(笑)。売り物の本はスペインの業者から仕入れたりもするけれど、ジャケ買いだと絵本は当たり外れが大きいので、書店で実際に見て買ったほうが安心です」
宇野和美さんは、スペイン語圏の子どもの本を手がける翻訳家であり、スペイン語の児童書専門のネット書店「ミランフ洋書店」の運営者。良質な本を出版社に持ち込むため、あるいはスペイン語学習者や読者に紹介するため、本の収集は決して妥協しない。
「見つけたときに買っておかないと、二度と手に入らない本もあるので」
1995年に『アドリア海の奇跡』(徳間書店)でデビューして以来、子どもの本を中心に訳してきた。その理由を探っていくと、10代の頃の読書体験にたどり着く。
転校ばかりで学校になじむのに苦労した小学生時代、愛読書は『がんばれヘンリーくん』や『やかまし村の子どもたち』といった海外の読み物。楽しそうな外国の子どもたちの生活に思いをはせた。中学生になると『赤毛のアン』やO・ヘンリーの短編に出会い、「翻訳家」という仕事への憧れが芽生える。そして高校時代には、スタインベックを皮切りに、新潮文庫に収められたアメリカ文学やロシア文学、フランス文学など、大人の小説世界へ。
そんなある日、学校の図書館で偶然ある本を手にし、感じたことのない高揚を味わう。「読みたかったのはこういう本だ!」と、心がはずんだ。
「『高校二年の四月に』という本で、今でいうヤングアダルト(YA)です。自分と同年代の主人公たちの心の機微が書いてあって、とても新鮮に感じました。そういう本があることを知らなかったし、誰も教えてくれなかった。このことを、翻訳者になろうと決めたときにふと思い出し、あの年頃に読むからこそ胸に刺さる本は絶対にあるだろうなと、『子どもの本を訳そう』という気になったんです。結果的にYAだけではなく絵本も訳すようになったけれど、私にとっては大事な1冊です」
※ 『通訳翻訳ジャーナル』2020年春号より転載 取材/金田修宏 撮影/合田昌史
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