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日本での通訳・翻訳需要は英語が大部分を占めており、中国語、フランス語など、学習者の多い言語がそれに続いていますが、それ以外の言語を専門とする通訳者・翻訳者も多数活躍しています。そういった学習者の比較的少ない、マイナーと呼ばれがちな言語=「その他の言語」を専門とする通訳者・翻訳者のお仕事を紹介します!
偶然出会ったインドネシア語に惹かれ
産業翻訳&出版翻訳の道へ
2007年、東京外国語大学東南アジア課程インドネシア語科卒業。在学中にガジャマダ大学へ留学し、インドネシアの魅力にはまる。2010年、再び同大学へ留学し、在学中にインドネシア語翻訳者として歩みはじめる。現在も翻訳を続けながら、東京インドネシア共和国学校の中高生へ日本語を教える。東ジャワ出身の夫とともに、日本の小学校に通う娘&インドネシアの小学校に通う息子を育てる二児の母。インドネシア語検定特A級。
きっかけは大学の体験授業
インドネシア語を学ぶうちにどんどん興味が沸いた
フリーランスとしてインドネシア語の実務翻訳と出版翻訳を手がける西野さんが、初めてインドネシア語に出会ったのは大学のオープンキャンパスだった。
「海外に関わることが勉強したくて、東京外国語大学をめざしていました。入試の時点で専攻語を決めてから受験する必要があるため、ひとまずオープンキャンパスに行き、たまたま開催されていたインドネシア語の体験授業に参加した、というのがすべての始まりです。英語以外の外国語を覚えたことがやけに嬉しく、そのままインドネシア語科に進みました」
入学当初はインドネシアについての知識はほぼゼロで、まさかこれほど長い間、インドネシアに関わることになるとは思いもよらなかったという。学んでいくうちに言語や文化に興味が出てきて、3年次にはジャワ島中部にあるジャガマダ大学へ1年間留学した。
「現地で暮らした1年間が本当に楽しくて、就職の際もインドネシア関連の仕事を探し、技能実習生の受け入れを行う社団法人に就職。インドネシアから日本に来る実習生のビザや保険の手続きをするなど、日常的にインドネシア語を使う環境で働いていました」
しかしその後、体に病気が見つかり、手術と長期入院のため職場を離れることに。回復してからも、体のために毎日の通勤は避けたいと考え、自分の強みを生かせる在宅の産業翻訳をしようと思い立った。
一念発起し、翻訳者としての力をつけるために、ガジャマダ大学へ再度留学。現地で通訳・翻訳をしている先輩にアドバイスを求めながら勉強を続けるうち、在学中から少しづつ仕事を回してもらえるようになった。留学2年目には同じ大学の日本語学科で学んでいたインドネシア人と結婚することになり、急遽帰国することに。帰国後は日本の翻訳エージェントに登録し、子育てのかたわら、インドネシア語・日本語の、両方向の翻訳者として働いている。
ネイティブチェックも含めた
日→インドネシア語翻訳を提供
翻訳の仕事は、日本語→インドネシア語だと、国際協力関係の文書や、日本在住のインドネシア人向けの告知など、公的機関などの案件が多く、インドネシア語→日本語だと、日系企業が必要とする公証人証書や契約書などが比較的多いという。
「割合的には日本語→インドネシア語が6割、インドネシア語→日本語が4割ほどです。日→イでは、インドネシア人である夫がネイティブチェックをした上での納品が可能ですので、そういったことから引き合いが増えているのかもしれません」
また、コロナ前は年に数回程度、展示会などのアテンド通訳も引き受けるほか、2017年から2020年には、上智大学でインドネシア語の非常勤講師をつとめた。この大学での仕事が、出版翻訳者としてデビューする契機にもなったという。
「東京外語大の同窓で、インドネシア語の翻訳者・通訳者・歌手などとして幅広く活動するの加藤ひろあきさんが2013年に小説の翻訳書を出したのを見て、『私もやってみたい!』という気持ちになったのが最初のきっかけです。加藤さんと話しているうちに、ディー・レスタリの短編集『Filosofi Kopi』(邦題『珈琲の哲学』)がふと頭に浮かび、出版が未定のうちから、2人で少しづつ同書を訳していました。その後、上智での仕事でお会いした東南アジア研究者の福武慎太郎先生のお力添えがあり、2019年に上智大学出版より同書が出版されました」
2021年には、2冊目の訳書となる『スパーノヴァ エピソード1 騎士と姫と流星』(ディー・レスタリ著、上智大学出版)を出版。コロナ禍で産業翻訳の仕事が減った時期を利用して翻訳を進め、こちらも福武氏に持ち込んで出版が決定した。
コロナの影響もひと段落
翻訳の需要は安定してある
西野さんは今年(2023年)でフリーランス翻訳者となって13年。コロナ禍の1年目には仕事の受注量が減ったそうだが、現在はほぼ元に戻っており、インドネシア語には安定したニーズがあると感じているそうだ。
「月単位で見るともちろん変動があるのですが、年間にならすと、コロナ禍を除いて毎年需要はあまり変わりません。技能実習生やEPAなど、多くのインドネシア人が来日するためのシステムが整っていることも一つの要因かもしれません」
現在は翻訳に加え、東京インドネシア共和国学校で、日本に滞在するインドネシア人の中高生に日本語を教える仕事もしている。多忙な日々ではあるが、産業翻訳のかたわら、出版翻訳も続けていくという。
「出版翻訳だけで生計を立てることは難しいため、日々の仕事の合間の『お楽しみ』としてコツコツ続けています。『スーパーノヴァ』は全6巻あるので、翻訳に時間はかかりますが、本になったときの感動を想像しながら、少しずつ前に進んでいます。出版翻訳や日本語教師を通じて日本語について深く考えるようになりました。日本語を磨いていくことが今後の大きな目標の一つです」
Advice! インドネシア語の翻訳者をめざす人へ
英語と異なり、インドネシア語の翻訳者になるための講座や情報などはかなり限られるため、フリーランス翻訳者として動き出すには、最初の一歩が難しいところではないかと思います。
私自身も大学の大先輩を頼ったり、信頼できるネイティブチェックを受けられる環境を整えたりしながら一歩ずつ手探りで進んできたような感覚でいるのですが、今では、12年前にエイッと踏み出してみてよかったと心から思っています。言葉でインドネシアの誰かと日本の誰かをつなぐ仕事に携わることができ、日々幸せです。
インドネシア語の翻訳案件は、日々どこかで発生しているので、少しずつ実績を積んでいくのがよいのではないでしょうか。
※ 『通訳翻訳ジャーナル』2023年冬号より転載。
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