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同意説明文書や治験契約書など、治験関連の文書を中心にメディカル分野で翻訳者として活躍する岡本彩織さんに、お仕事の特徴や魅力について語っていただきました!
同意説明文書や治験契約書など、治験に関わる文書を英訳
新薬開発を語学面でサポート
始めたきっかけは? ―文学部出身の文系
がん専門病院とCRO勤務を経て、フリーのメディカル翻訳者に
薬剤師や看護師、獣医師免許所持者など理系が多いといわれるメディカル翻訳者だが、岡本彩織さんは大学で英文学を専攻していた根っからの文系。もともとメディカル翻訳者を志望していたわけでもなかった。
「小さい頃から英語が好きで、英語を使う仕事をしたいと考えていました。そんな時、病院事務職として働いていた友人から病院によっては英語を使う仕事があると聞き、就職したのががん専門病院でした」
病院では外国人患者の対応を担当。来院時のコミュニケーションのサポートや、院内文書の翻訳に携わった。
「検査技師さんや看護師さんの説明をその場で患者さんに英語で伝えるのですが、はじめは医療の知識がなかったので、新しく学ばなければならないことが多く必死でした。先輩に教えてもらいながら、自分でも海外病院のWebサイトなどで表現を調べたりしていました。定型文を覚えて場数をこなすうちに、何とかできるようになりました」
がん専門病院に2年半ほど勤めた後、CRO(医薬品開発業務受託機関)に転職。入社後は治験立ち上げ業務にかかわる部署で、タイムラインの管理や規制当局への申請、必要な文書の作成およびチェック、翻訳管理などを行っていた。さまざまな疾患の治験の立ち上げ業務を通して、治験について学び知識を深めた。
訳すもの&特徴は? ―9割以上が英訳
大ボリュームの文書を短期間で翻訳する
その後、翻訳者ネットワークの「アメリア」で見つけた翻訳会社のトライアルを受け合格し、2019年にフリーランスのメディカル翻訳者として独立。病院やCROでの実務経験を活かし、主に日英翻訳を行っている。
現在は、国内・海外の4社ほどから仕事を受注している。手がけているのは、治験に関する文書がほとんどで、同意説明文書、治験参加カード、治験契約書、治験費用に関する文書(ポイント表や積算書)、統一書式、治験届など。また、紹介状や検査結果など、医療機関で発行される文書の英訳も行っている。治験文書には和訳と英訳があるが、岡本さんが受けているのは9割以上が英訳だ。
「和訳も英訳もありますが、私は病院やCROで英訳を担当していたので、英訳のほうがやりやすいというのが大きな理由です。対応している文書の種類に幅がありますが、文書によって適切な語彙、トーン、文法を意識して訳出しています」
翻訳の分量も、文書によって違う。試験によっても大きく変わってくるが、例えば同意説明文書は25~50ページほど、契約書は5~10ページにプラスして数ページ~10ページ以上の覚書などが複数あるということが多い。
「ボリュームのある文書も多いですが、最初から最後までまったく初めての内容ということはほとんどありません。同意説明文書も治験契約書もそれぞれ記載しなければならない内容が定められているため、部分的に過去に似た内容を訳した経験があることになります。厳しい納期のことが多いですが、可能な限り柔軟に対応するよう心がけています。品質を維持するために必要な場合は納期を交渉することもあります」
翻訳している主な医薬関連文書の種類
治験関連
・同意説明文書
・治験契約書
・統一書式 など
病院関連
・診療情報提供書(紹介状)
・検査結果
・報告書 など
* 和文英訳が中心
仕事の魅力は?
進歩する医療技術に触れ、新薬開発の一助になることが一番のやりがい
最も難しいのは、自分の英訳が自然な表現かどうか、またその文脈で最適な言葉を選択できているかを判断することだという。
「意識しているのは手を抜かないこと。時間が許す限り辞書を引き、リサーチをして訳文を仕上げます。たとえそれが中学生で習うような簡単な語彙でも調べることを怠らず、用法が合っているか、過不足や誤りなく原文の意味を伝えられているかを中心に確認します。治験文書に限らないと思いますが、やはり量をこなすのがいちばん勉強になります。コツコツと経験を積み重ねていくしかないと実感しています」
苦労もあるが、自分が新薬開発の一助になっていることにやりがいを感じている。
「治験関連の翻訳をしていると、医療が日々進歩していることを実感できますし、開発中の新薬や治療法が、どのような仕組みで体の中で効果を発揮するのか知ることができてわくわくします。以前に比べると間接的ではありますが、医療に携われていることが充実感につながっています」
機械翻訳やAIの影響も多少は感じるというが、情報の守秘が求められるメディカル翻訳では、機械翻訳の使用が禁止される場合も多い。CATツールの使用が求められる案件は増えてきている。岡本さんもフリーになった当初はCATツールを使っていなかったが、その後使い方を勉強して導入し、CATツール案件も受けるようになった。
数年前からは、単発で講師を務める機会もあり、同意説明文書の英訳の録画配信講座や治験コーディネーター向けの医療英語スキル講座を担当した。翻訳そのものが好きで、CROで翻訳会社に発注していた案件も、時間さえあれば自分でやりたいと思っていたほど。「悩むこともありますが、やりたいことをやれているという実感が、がんばり続けられる原動力となっています」と語る。
メディカル翻訳者をめざす人へのAdvice!
自信を持って翻訳できる
領域や文書を見つけよう
メディカル翻訳は幅が広いので、あれもこれもとすべてに手を出してしまうと、スタートラインに立つことも難しいかもしれません。まずは、自信をもって翻訳できる領域や文書を見つけられるとよいと思います。私自身、フリーになりたての頃は、プロトコールなど専門性の高い文書も翻訳できたほうがよいのではないかと悩んだこともあったのですが、そうした文書の翻訳はほかに適任の人がいるだろうと考え、自分が自信をもって取り組める種類の文書を、「これなら岡本に任せたい」と思ってもらえるように強化する方向に考え方を変えました。医療技術は日々進歩していますので、新しい知識に触れて勉強しなければならないことに変わりはないのですが、無理のない頑張り方でもいいのかな、と思っています。
また、クライアントからの指示やスタイルガイドに従うことも大事です。たとえ訳文が完璧でも、指示が守れないということはクライアントの要望に応えられていないということ。翻訳者はサービス業であるという意識も忘れないようにしています。
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おかもと・さおり/上智大学文学部英文学科を卒業後、がん専門病院に就職。外国人患者の対応を担当する部署で、来院時のコミュニケーションのサポートや院内文書の翻訳に従事する。その後、CRO(医薬品開発業務受託機関)に転職し、治験立ち上げ業務に携わる。2019年にフリーランスの翻訳者として独立以降は、実務経験を活かし、同意説明文書や治験契約書など、治験関連の文書を中心に日英翻訳およびチェックを行っている。
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