フリーランスと会社員での社会保険・福利厚生の違い
会社員の場合は、健康保険、年金、雇用保険など、生活上、就業上起こりうるさまざまなリスクに備えるしくみにいわば自動加入している状態です。
これらはすべて「保険」というしくみですが、その恩恵を得るためには保険料の支払いを求められます。
会社員の間は、この保険料を受益者である会社員自身も負担しますが、一部または全部を企業側が負担します。また保険料の支払いは給与からの天引きで行われるので、支払いが滞る可能性がほぼないと言ってもよいでしょう。
一方フリーランスになれば、保険料はすべて自己負担となります。また、会社員であれば加入できるがフリーランスになると加入できない制度があったり、類似の制度でも会社員への給付内容が手厚い部分があるなど、会社員に対する保護が、対フリーランスよりも手厚い傾向があります。
また企業に勤める会社員は、企業が独自に準備する福利厚生制度の恩恵を受けることもできますが、フリーランスにはありません。
これらについて、具体的にみていきましょう。
1.健康保険
会社員として働いている間は、雇い主である企業が加盟している健康保険制度(健康保険組合や健康保険協会など)に加入することとなります。
毎月の保険料は給与天引きで負担しますが、個人が負担する金額と同額を企業も負担しています。保険料率は平均的には給与・賞与の10%程度が現状です。40歳を超えるとこれに1%程度の介護保険料が加わることとなります。
一方フリーランスの場合には、原則的には居住する市町村(東京23区は区)が運営する国民健康保険(通称「国保」)に加入することとなっています。
ただし企業を退職する際には、それまで加入していた健康保険制度に2年間、引続き加入できる任意継続という制度もあります。
国保と任意継続では保険料計算の根拠が異なるため、任意継続のほうが有利であれば、それまで入っていた制度にとどまることができます。ただし、加入期間は2年間で、保険料は企業負担がなくなるので、全額個人負担となります。
保障内容は両者とも変わらず、原則医療機関窓口への支払いは30%、残りの70%は加入している健康保険制度から支払われます。ただし退職前には支給される傷病手当金、出産手当金の支給はなくなります。
また企業が加入している保険制度には、独自に備えられている給付内容が付くこともありますが、国保ではありません。
2.年金
退職後の生活を支える国の年金制度は、二階建ての制度だと言われます。
日本国内に住む20歳以上60歳未満までのすべての人が加入する国民年金が一階部分、その上に会社員、公務員などが加入する厚生年金があります。
会社員の場合、この二階建の両方に加入することになりますが、フリーランスの場合は国民年金のみの加入です。
国民年金から65歳以降に受取る老齢年金は、40年加入で満額の年額約80万円、加入していた期間に応じた年金額が支払われます。加入期間が1年短ければこの金額が約2万円少なくなるというしくみで、10年未満の加入ではそもそも支給されません。
厚生年金は加入期間の長さと保険料のもとになっている現役時代の報酬(給料やボーナスの額)に応じて、65歳以降に支払われる老齢基礎年金の額が決まる報酬比例型の年金です。
会社員にはこの厚生年金の上乗せがあり、フリーランスにはないわけですから、会社員に手厚い制度になっています。
会社員を辞めてフリーランスになるケースでは、会社に勤めていた加入期間に対応する老齢基礎年金と老齢厚生年金に加えて、フリーランスに転じた後の加入期間に応じた老齢基礎年金を合計したものが65歳以降に支払われます。
会社員の場合、これら公的年金に加えて企業年金と呼ばれる会社独自の年金制度があったり、退職一時金制度が備わったりと、フリーランスにはない、老後に備える制度が提供される企業も多くあります。
フリーランスで働く場合は、会社員に提供されている手厚い支えがないぶん、国民年金基金や個人型確定拠出年金といった自助努力をサポートするような制度を活用することを考えることが求められます。
3.労働保険
会社員は、通勤途上や就業中に起因する病気や怪我で治療、休業などが必要となった場合に、給付を行う労災保険制度に企業の保険料負担で加入します。
また失業時に生活を支えることに資する俗にいう失業給付(正式には基本手当てといいます)や、職業上の技能向上のための教育のための給付を行う雇用保険に労使が保険料を分担負担して加入する雇用保険が提供されています。
労災保険と雇用保険を合わせて「労働保険」と呼びますが、フリーランスにはこの適用はありません。
4.その他の福利厚生
このように、税金や社会保険を中心とする福利厚生面では、会社員であるうちは、会社のサポートがさまざまあります。
特に社会保険においては、保険料の相当部分を会社が負担してくれるという環境で働くことができます。
この他にも、住宅手当や出産・育児、スキルアップに関わる諸手当や研修制度、さらにはさまざまな福利厚生設備の提供など、企業で働いていれば、多くの支援があります。
フリーランスになれば、これらを受取ることはできません。
制度を知らないと損をすることがある
税金、社会保険、福利厚生面で会社員として働く場合とフリーランスに転じた場合の比較をしてみました。
制度について知っていれば、いろいろなメリットを享受できますし、享受し損ねることもなくなるはずです。
例えば、退職日が1日違うだけで、退職金を受け取った際にかかる税金の額が違ってしまう、退職後20日を経過してしまうと健康保険を任意継続したいと思っても期限切れでできない、などがその一例です。
また、社会保険制度全般に共通していることは「請求しなければもらえない」という点も、しっかり記憶すべきことでしょう。
これからフリーランスに転じようとしている人には、会社を辞める際にもらえるはずのさまざまなメリットをもらい損ねないために税金や社会保険面での情報収集をしっかりされることをおすすめします。
また年金制度を初め、社会のしくみ全体が会社員に手厚い体系になっているため、フリーランスになった際には、例えば年金額の差をカバーするなど、これらを補うためにどういう手立てがあるのかについては、積極的に知識を得るようにしましょう。
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オフィスエイ・エイチ代表。ファイナンシャルプランナー、DCプランナー。1980年東北大学卒 業後住友銀行(現三井住友銀行)入行。国内では商品開発業務、欧米2拠点に7年間勤務後ニューヨークで独立。2001年に帰国後外資運用会社、外資保険会社で金融トレーニングのプロとして活躍。2011年に独立。58歳で大学院に入り言語学を専攻、東京大学博士(学術)を取得。2018年以降は、国際金融業界と言語学の知識を活かし早稲田、明治、法政など大学での英語講師活動を本格的に行う一方、金融関係では確定拠出年金説明会や企業従業員向けライフプランニングセミナーなどを日英両語でつとめるかたわら、金融専門誌への執筆を続ける。