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2024.08.09 UP

東京外国語大学大学院
「日英通訳・翻訳実践プログラム」同時通訳実習レポート!

東京外国語大学大学院<br>「日英通訳・翻訳実践プログラム」同時通訳実習レポート!
※『通訳翻訳ジャーナル』AUTUMN 2023より転載。

通訳・翻訳をカリキュラムに取り入れている大学や大学院ではどのような授業が行われているのか? 東京外国語大学大学院の授業を見学させていただいた。また、「日英通訳・翻訳実践プログラム」や学部生の学びについて、担当教授の内藤稔先生に詳しくお話を聞いた。

同時通訳実習のキャンパスツアーに参加!

お話 西畑香里先生
お話 西畑香里先生東京外国語大学大学院 総合国際学研究院講師

にしはた・かおり/ハワイ大学大学院修士課程、東京外国語大学大学院博士前期課程修了。製造業界での海外営業、複数企業での社内通翻訳者、フリーランス会議通訳者などを経て、現職。

聞き手として学部生も参加し、同時通訳実習を実施

東京外国語大学大学院の「日英通訳・翻訳実践プログラム」は通訳・翻訳に関する学びに特化した2年間のコースである。2023年5月下旬、「日英通訳・翻訳実践プログラム」2年次の必修科目で、西畑先生が担当する「通訳翻訳実践研究(実践同時通訳演習)」の授業が行われた。

これまでの授業で大学院の学生たちは実習の準備をすすめており、今回、初めて実際に「同時通訳実習」を行う。参加したのは、大学院2年生4名、大学院1年生3名、学部生(西畑先生のゼミ生の希望者)4名。この授業は、大学院2年生の必修科目だが、この日は1年生と学部生も聞き手として参加した。

「内容は、2年生の4人が指定時間の50分の間に、1年生と学部生に対してキャンパスツアーを行い、それを通訳する、というものです。事前準備としてツアーの内容や英語原稿を考え、グループワークや自主練習をしています。また、1週間前にはツアーのリハーサルを行い、私や学生同士のフィードバックで上がった課題を改善して、本番に臨みます。実習では、学生たちがさまざまな体験をできるよう、同時通訳ブースと持ち運びのできる簡易通訳機材、両方を使います」

教室内にある同時通訳ブース
教室内にある同時通訳ブース。

授業で実際に使用した簡易通訳機材。左が送信機で右が受信機。
授業で実際に使用した簡易通訳機材。左が送信機で右が受信機。

スピーカーと通訳の両方を体験する

授業の初めに、聞き手となる1年生と学部生は簡易通訳機材の受信機を受け取る。スピーカーの2年生が英語で操作法などを説明し、通訳者役の2年生がそれを逐次通訳する。受信機のセッティングを終えると、いよいよ同時通訳がスタートする。まず、キャンパスツアーの導入として、スピーカーの学生は用意したパワーポイントを見せながら、ツアー内容や注意事項を英語で説明し、それをペアの学生が教室内の同時通訳ブースから同時通訳する。1年生と学部生は受信機を通して2年生が訳出した日本語を聞く。

教室内での説明を終えると、外に出て学内の施設を回りながら、簡易通訳機材の送信機を使ったツアーガイドをする。2年生4人でスピーカー役(英語)と通訳者役(英→日の同時通訳)を交代しながら、全員が両方を体験する。学内を歩く間には、クイズや小話が盛り込まれており、ツアーに参加した学生たちが楽しめるような工夫が凝らされていた。受信機を通して聞こえる日本語の訳出も、はっきりとしていて聞き取りやすく、場面に合わせて臨機応変に動き、通訳をする姿が印象的だった。

ツアー終了後には教室に戻り、1年生や学部生からの質疑応答やフィードバックの時間があり、活発な意見交換がされた。

「実習後、録音した訳出を聞き返して改善訳を考えたり、準備不足の点を話し合うなど、振り返りの時間を設けています。パフォーマンスに対してディスカッションの時間がしっかりとれるのも、院での学習の特徴だと思います」

スピーカー(手前)がパワーポイントの説明をし、それを奥の同時通訳ブースで通訳している。スピーカーと通訳者が目を合わせている。
スピーカー(手前)がパワーポイントの説明をし、それを奥の同時通訳ブースで通訳している。スピーカーと通訳者が目を合わせている。

スピーカー(中央左)と通訳者(中央右)。役割を交代しながら学内を案内する。
スピーカー(中央左)と通訳者(中央右)。役割を交代しながら学内を案内する。

目標を設定し、実現するために実践を

大学や大学院で、同時通訳ブースや簡易通訳機材を実際に使用するのは、学生たちにとっては貴重な経験だ。

「実習の目的の一つは、オーディエンスの前で同時通訳パフォーマンスをしながら実際に機材に触り、使い方に慣れることです。またスピーカーと同時通訳のどちらも体験しますが、良いパブリックスピーカーでないと、良い通訳はできないので、これは重要な経験です。実習を通し、2年生は下級生からフィードバックをもらい、1年生や学部生は先輩のパフォーマンスを見ることができるため、お互いに学び合う機会になります」

同プログラムで同時通訳を学ぶのは、2年生からのため、大半の学生にとっては今回の実習が初めての同時通訳ということになる。

「実習で自分の課題を認識し、目標を設定し、それを達成できるよう行動計画を立てて実践をすることが大事です。授業を通して自身の通訳技術を磨きつつ、チームワークや思いやり、社会人としてのマナーも身につけてもらいたいと思っています」

学生たちは、どんな場面や状況でも、通訳者としてふさわしいパフォーマンスや対応ができる力を身につけるため、日々授業に取り組んでいた。

学内の資料館に入り、大学の歴史について解説する場面も。
学内の資料館に入り、大学の歴史について解説する場面も。

教室に戻り、参加者の質問に答える大学院2年生。
教室に戻り、参加者の質問に答える大学院2年生。

実習の感想 ― 参加学生より

通訳機材を使用するのは初めてで、全員がマイクを通して通訳をするのはもちろん、「通訳をされる」スピーカー役と、「通訳を客観的に聞く」オーディエンス役も順番に回すことができ、貴重な経験でした。

事前準備では、エンターテインメント性も意識しながら、参加者にとって有益な情報を盛り込むため、大学内を何度も回ってツアーの導線を考えました。話す内容については、各自が担当するエリアの原稿を共有し、意見を出し合って内容を改善し、訳出を考えました。何度も原稿の読み合わせを行い、通訳の練習をしました。

本番では満足のいく訳出を行うことができましたが、通訳機材の使用が初めてで、通訳者の交代時の機材の受け渡しがうまくいかない、声が聞こえない、雑音が聞こえてしまうなどのトラブルもあり、まだまだ改善の余地がありました。

通訳者にとって、自身のパフォーマンスだけでなく、チームワークも重要です。実習の本番でも、お互いを客観的に見て「声が小さい」などと指摘し合うことができました。今後も今回の反省点を生かし、プログラムの仲間同士で助け合っていければと思います。

※『通訳翻訳ジャーナル』AUTUMN 2023より転載。 撮影/合田昌史

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