「学生通訳コンテスト」も主催する名古屋外国語大学の「通訳特化プログラム」とはどのようなものなのか。通訳の授業を担当する浅野輝子先生に詳しく聞いた。
外国語能力と専門知識を磨く「通訳特化プログラム」
社会的問題に関心を持たせるという教養教育の側面もある
名古屋外国語大学現代国際学部では2022年度から、通訳者に必要な外国語能力と専門知識を磨く「通訳特化プログラム」を開設している。このプログラムには、現代国際学部生のみを対象にした「通訳法1・2・3」(1・2年次)と、全学部の学生に開放する「通訳概論」「司法通訳の世界」「医療通訳の世界」「ビジネス通訳の世界」(いずれも3・4年次)などの科目があり、通訳の基本的な技術を身につけながら、総合的な英語力の向上をめざすほか、通訳の現場で求められる専門知識の習得を図っていくという。開放科目は2024年度以降の開設であるため、現在は「通訳法1・2・3」の授業が行われている。
大学という高等教育機関で通訳教育を行う意味について、浅野輝子名誉教授はこう語る。
「通訳トレーニングの範疇にとどまらず、学生に社会的問題に関心を持ってもらうという教養教育の側面もあると思っています。私の授業では、過去の『学生通訳コンテスト』のスクリプトをまとめた『通訳ワークブック1・2』を教材にしていますが、クラスの学生はみな真剣にそれぞれのテーマに取り組んでいます。そうした姿を見ると、テキストを効果的に使い、社会的問題への関心を高めながら通訳を学んでくれているなと感じます」
通訳トレーニング法を用いて英語の4技能を向上させる
「通訳法1・2・3」の授業は、ブースを完備した同時通訳室で行われている。少数精鋭の選抜クラスであり、現在は12人の2年生が日本人講師と外国人講師のペアティーチングによる指導を受けている。履修にあたり選抜試験等は課さず、学習意欲の高い学生を選ぶようにしているという。
「履修成績にも厳しい基準を設けていますので、やる気のある学生に来てほしいと思っています。留学等で欠員が出ても、補充は行いません。留学以上の効果が出せるクラスをめざして、みんなで切磋琢磨しているところです」
具体的には、シャドーイング、リプロダクション、サイトトランスレーション、クイックレスポンスなどの通訳トレーニング法を用いて、英語の4技能を向上させる訓練を行う。このほか、日本語の内容を日本語でまとめたり、英語の内容を英語でまとめたりするユニリンガルトレーニング、異なる単語や構文を使って文章を言い換えるパラフレージングなども取り入れている。
「通訳法1・2・3」の段階では、通訳トレーニング法によって英語力を伸ばし、その英語力を用いてグローバル社会で活躍できる人材を育成することを目標にしているという。来年度開設の開放科目では、司法や医療、ビジネスなどの専門知識や用語も扱いながら、さらに高いレベルの通訳教育を行うとしている。
名古屋外国語大学には、「通訳者になりたい」という希望を持って入学してくる学生もおり、同大で通訳教育を受けた10人以上の卒業生が社内通訳者として活躍中だ。また、英語のほかポルトガル語やフィリピノ語などを修めた卒業生が、司法通訳や医療通訳の現場でも活躍している。
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(2023年度)
通訳法1・2・3
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(2024年度から開始)
通訳概論
司法通訳の世界
医療通訳の世界
ビジネス通訳の世界
※『通訳翻訳ジャーナル』AUTUMN 2023より転載。 取材/岡崎智子
あさの・てるこ/名古屋外国語大学名誉教授。学生通訳コンテストコーディネーター。大学卒業後、ISS同時通訳養成所に通う。その後通訳者として活躍した経験を持つ。現在、名古屋地方裁判所、高等裁判所法廷通訳人。愛知県弁護士会登録通訳者。「あいち医療通訳システム」推進協議会副会長。医療通訳養成講座専門家委員を務める。