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2023.08.09 UP

知っておきたいセキュリティの基本Vol.4
セキュリティ事件ファイル その2

知っておきたいセキュリティの基本Vol.4<br>セキュリティ事件ファイル その2
※『通訳翻訳ジャーナル』2022 年冬号、特集「フリーランスのセキュリティ対策」より転載

フリーランスの場合、自分自身でPCやネット環境のセキュリティ対策を講じなければならない。
何をどこまでするべきか、どういう盲点があるか、知識をつけないことには始まらない。
IT 分野全般に詳しく、多くのフリーランス通訳者・翻訳者とやり取りしてきた「翻訳者ディレクトリ」の加藤隆太郎さんに、知っておくべき知識やよくあるトラブルを解説していただいた。

▶セキュリティ事件ファイル Case3

フリーランス翻訳者のC 子さん、普段は在宅ですが、今は短期契約のオンサイトで働いています。
ここのところ仕事が溜まっているので、自宅に持ち帰って続きをすることにしました。自前のUSBメモリにファイルを保存して、家路につきます。
疲れていたB 子さんは、混雑していた駅で転んでしまいました。落ちてしまった鞄の中身を拾い集めて、帰路を急ぎました。
帰宅後、仕事を再開しようとすると、鞄に入れたはずのUSBメモリがありません。

機密文書は持ち出し厳禁

機密文書、個人情報であるかどうかに関係なく、業務のデータをUSBメモリに入れて、社外に持ち出すというのは、絶対にやってはいけない行為です。規則で禁止している企業が多くなっています。
私物のUSBメモリの持ち込みも不適切ですし、場合によっては機密情報の盗用などで疑いをかけられたり、漏洩の責任を追及される可能性があります。

▶セキュリティ事件ファイル Case4

フリーランス翻訳者のF子さんは、もっぱら海外の求人サイトを利用しており、あまり知られていない翻訳求人サイトを見つけました。そこは、日本人翻訳者が少なく、自分一人で独占できるような状況。
まもなく、憧れていた有名翻訳会社の求人を見つけました。なぜここに?と少し疑問を覚えましたが、調べたところ社名、サイトURL、電話番号、住所、担当者名までが実在のもの。これは本物だと確信します。メールアドレスだけがフリーメールでしたが、海外ではビジネスにGmailがよく使われれるので疑問に思いませんした。
簡単なやりとりをして、初めての仕事を受注します。
その後、リピートオーダーはなく、少しがっかり。さらに、期日を過ぎても、支払いがありません。
問い合わせのメールを送ると、そのメールアドレスはすでに使われていませんでした。あわてて、会社のサイトから連絡フォームを見つけ出し、問い合わせます。すると、返信が来て、その内容に衝撃を受けます。
「そんな仕事をあなたに発注した事実はない。あなたと当社は契約もしていない」……。

プロフィールも盗まれる!

海外で報告の多い、プロフィール丸ごと盗用詐欺の被害です。
手口は、実在の会社の社名からサイトURL、電話番号、住所、担当者名まで、すべてを盗んで、その会社に成りすまします。メールアドレスだけが偽物で詐欺犯のものにすり替えられています。取引開始時に、ほとんどのフリーランスが、わざわざ電話をかけて確認はしないという盲点をついています。
このプロフィール丸ごと盗用詐欺は、会社だけでなく、見栄えのするキャリアをもつ個人翻訳者のプロフィールが盗まれることもあります。
国内では少ないようですが、「翻訳者ディレクトリ」の運営を通して1件だけ遭遇したことがあります。怪しいので身分証の提示を求めると、偽造した運転免許証を送ってくる骨のある詐欺犯でした。
しばらく泳がせて証拠を複数集めてから、警察に詐欺犯罪の情報提供をし、証拠書類は受理されました。

■インターネットメールについて詳しくはこちら⇩
1.インターネットメールの基本的な仕組みを理解する

翻訳者ディレクトリ 運営管理者 加藤隆太郎
翻訳者ディレクトリ 運営管理者 加藤隆太郎Ryutaro Kato

20代後半で翻訳学校に通い、独立開業。翻訳学校2校にて通算12年間通学講座の講師を務め、コース設計まで手がけた。深い業界知識を生かし、執筆、事業協力、コンサルティングなど、幅広く翻訳関係の業務に従事。多年にわたるディレクトリ管理者としての現場経験から、フリーランス目線でのセキュリティ問題に詳しい。
*翻訳者ディレクトリ https://www.translator.jp/