通訳業界に関わって30年以上で、現在は一般社団法人 通訳品質評議会 理事 を務める藤井ゆき子さんが通訳者のキャリア形成について解説します。
通訳者の働き方は?どうステップアップするべきか
まず最初にお断りしておかなくてはなりませんが、私は通訳者として働いたことはありません。
30年以上の期間、通訳者手配や育成に関わり、多くの通訳登録希望者やプロをめざして勉強している方々との面談や、デビュー後のキャリア形成について関わってきました。
また最前線で活躍しているベテラン通訳者や通訳を依頼して下さるお客様とも幾度となくやりとりをしてきました。
そうして蓄積してきたものを、守秘義務に抵触しない形でお知らせしていきたいと思っています。
将来通訳者になりたい、また通訳者としての今後のキャリアに悩んでいる方々に少しでも参考になれば幸いです。
時代によって通訳者の働き方は変化する
現在、通訳者としての就業形態は
① 事業会社に直接雇用されるインハウス通訳者
② 派遣会社からインハウス通訳者として手配される派遣通訳者
③ 案件ごとに専門エージェントに手配される業務委託契約のフリーランス通訳者
の3つです。
それぞれの詳細は次回以降にご説明しますが、時代ごとにその働き方がどのように変遷してきたかをまずご説明しましょう。
時代をさかのぼれば、通訳という仕事が日本の一般社会に認識されたのは、おそらく1969年の「アポロ月面着陸のTV放送」ではないかと思います。
当時は通訳の仕事は一般の目に触れる機会は少なく、特別な地位の方々や専門研究者が出席する「国際会議」や政財界のトップの方に随行する仕事が主流でした。
特定の通訳エージェントが訓練した実績のある会議通訳者が、会議ごとに手配されていた時代です。
海外でも会議通訳者はフリーランスつまり個人事業主が基本で、エージェント経由かもしくは主催者に直接、業務委託や業務請負の形で案件ごとにお仕事を受ける形です。
上記③が主流だった時代です。
その後、高度成長時代を迎え、日本企業も海外進出を進めて行く中で、当然語学の需要は高まります。
ただ、当時は企業内の語学に堪能な社員が直接担当したり、企業トップの語学サポートをすることも多く、現在のようなインハウス通訳者が常駐していことは稀でした。
外資系の参入でインハウスが増加
大きく状況が変わったのは、バブル崩壊後の1990年代後半に外資が日本の基幹産業である輸送機器や金融機関に本格参入した時です。
マネジメント層が外国人になって、大量の通訳者の緊急需要が生じました。
今までのように、エージェントからの案件ごとに手配される通訳者では対応しきれない状況になってきます。
この過程で①インハウス通訳者として直接雇用されたり、②派遣会社から派遣される通訳者が増えてきました。
もちろんそれまでにも、大手のグローバル外資企業の日本法人や駐日大使館などでは直雇用されていた通訳者もいましたが、絶対数が増えたのはこの頃になります。
そして2000年代に入り、徐々に外国人投資家が日本企業の株式の持ち株率を高め、2005年の25%を超えたあたりから、業種にかかわらず投資家対応としての通訳需要が増えて行きました。
また海外進出をしている日本企業の現地法人のトップは外国人であることは珍しくなくなってきます。
この段階になるとますます社内会議需要も増えて、インハウス通訳者が増えてきます。
近年ではオンライン会議も増加し、企業としては今まで予算上通訳を随行できなかった海外での会議もオンラインで参加できるようになったり、グローバル企業の社内会議もオンライン化で頻度が増えました。
そのため、高度な通訳技術と社内の製品情報や経営戦略もわかることに加えて、オンライン会議に対応できる通訳者を、しかもコストを抑えて求めています。
ただ、それに対応するのはいろいろと難しい現状であります。
その詳しいところは回を追ってご説明していきます。
次回はインハウス通訳としてキャリアを積む留意点を中心に説明します。
慶應義塾大学卒業後、日本外国語専門学校(旧通訳ガイド養成所)に入職。広報室長を経て、1987 年(株)サイマル・インターナショナルに入社、通訳コーディネーターとして勤務後事業部長を経て2012年11 月に代表取締役就任。2017 年4 月末に退任後、業界30 年の経験を生かしフリーランスでコミニュケーションサービスのアドバイザーとして活動。2017 年10 月より一般社団法人通訳品質評議会(https://www.interpreter-qc.org)理事に就任。