
Contents
2024年5月25日(土)、26日(日)の2日間にわたり、カナダ・トロントで日本翻訳者協会(JAT)の国際会議「IJET-32」が開催されました。
日本から参加した、JATの元理事であり特許翻訳者の平林千春さんに、会場の様子を紹介していただきました!
IJET-32(第32回英日・日英翻訳国際会議)の様子をレポート!
コロナ禍を経て、久しぶりの海外開催
英日・日英翻訳国際会議 (IJET) は、日本翻訳者協会 (JAT) が日本と海外の会場で交互に毎年開催する、世界中の英日・日英翻訳者及び通訳者のための国際会議です。
私自身は、2014年に東京で開催されたIJET-25に参加して以来、英国ヨーク、仙台、米国コロンバス、大阪、それからコロナ禍明けに昨年開催された東京IJET-31に続き、7回目のIJET参加です。今年は久しぶりの海外会場、カナダ・トロントでの開催とあって、絶対に参加したいと思い、半年前に航空券を買って楽しみにしてきました。

今年のIJET-32のテーマは「Who knit ’ya? Who are we in the age of Chat-GPT?」。この「Who knit ’ya?」とは、ニューファンドランドのスラングで「あなたの両親は誰ですか?」という意味であり、この地の社会の強い結びつきと繋がりを強調する言葉です。
近年のAIの進歩により私たち翻訳者・通訳者のコミュニティの結びつきが弱まり始めており、私たちが何者であるかを知ることが今まで以上に重要になっているとの考えから、このテーマが選ばれたそうです。
本会議では2024年5月25日~26日の2日間にわたり全23のセッションが行われ、世界各国から100名弱の翻訳者・通訳者の参加がありました。
オープニングセレモニー
開会式では、IJET-32委員会からの挨拶に続き、第20回JAT新人翻訳者コンテストの受賞者の表彰式が行われました。このコンテストは、実務経験が通算で3年未満の方が対象で、英日・日英各部門の入賞者にはIJETの参加費などの豪華な副賞が授与されます。
毎年開催されていますので、興味のある方はJATのWebサイト(https://jat.org/ja/)をチェックしてください。

基調講演
IJET-32の基調講演には、トロント出身の多言語落語家、桂三輝(サンシャイン)さんが登壇されました。日本の伝統芸能の研究のため来日された折に落語の世界に魅了され、桂三枝(現・文枝)さんの弟子となり、いまやワールドツアーを始めロンドンおよびニューヨーク・ブロードウェイにてロングラン公演を行われている桂サンシャインさん。おなじみの演目『寿限無』や、『桃太郎』をベースにしたオリジナル落語を英語で披露してくださいました。

約2時間の講演は爆笑に包まれ、世界的スターの落語を目の前で堪能しました。
また、日本の文化だけでなく、日本と世界で共通する笑いの心を伝えるためにどのように翻訳を工夫されているかに関するエピソードを伺い、落語の翻訳は職人芸なのだなと感銘を受けました。
各セッション
Hands-onの翻訳演習からビジネス一般、AIの活用法、文芸、通訳、特許など、さまざまな分野のセッションが同時間帯に4つ並行して行われるので、どれに参加するか迷います。
(IJET-32のセッション一覧はこちら)
IJETのような翻訳会議では、自分の専門分野以外の話を聞くことができるのも醍醐味ですよね。そこで今回は、小説の翻訳に関するセッションにも参加しました。原文の言葉をただ訳すのではなくて、情報を追加したり削除したりしながら、ターゲット言語で登場人物を「再現」していく手法を、講演者が実際に翻訳された作品からたくさんの事例を挙げて解説していただきました。また、ChatGPTの訳文との比較もあり、AI翻訳がどのような点を読み間違えているのかについての解説もありました。いつも感じることですが、小説や文芸の翻訳は一つのアートなのだと思います。
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ほかには、私自身の専門分野である特許関連の講演や、スポンサー主催の講演にも参加しました。
また、IJET恒例のBook Exchange(本の交換会)もありました。
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夕食会や各種イベント
初日の夜にIJET開場のホテルで開催された夕食会では、抽選会などで大いに盛り上がりました。また、(私は参加できませんでしたが)会議前の金曜日にはランチ会や前夜祭があり、会議後の月曜日にはナイアガラの滝のツアーも企画されていました。
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通訳・翻訳コミュニティの結びつきを実感

IJET-32のテーマの通り、実際にface to faceで翻訳者・通訳者と会うことで「コミュニティの結びつき」を強めることができたのではないかと思います。AI翻訳の時代にあっても、私たち翻訳者・通訳者にできることはまだまだたくさんあると強く感じた会議でした。
IJETを含め、JATの活動は、全てボランティアによって支えられています。IJET委員や学生ボランティアの皆様に改めてお礼を申し上げます。ボランティアをすることによって、たくさんの翻訳者・通訳者と親交を深めることができます。ご興味のある方は、JATのWebサイトをご覧ください。
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なお、来年のIJET-33は、2025年5月9日(金)~11日(日)に福岡市で開催予定です。どうぞお楽しみに!

特許翻訳者 / 弁理士。特許事務所勤務を経て2008年に独立、平林特許・翻訳事務所を設立。特許・知財系文書の英日・日英翻訳が専門。東京理科大学専門職大学院 元特任講師 (2008年~2016年) 。日本翻訳者協会 (JAT) 元理事 (2016年~2020年) 。
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