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2023.12.13 UP

AAMT 2023, Tokyo 会場ミニレポート!

AAMT 2023, Tokyo 会場ミニレポート!

2023年11月29日(水)、一般社団法人アジア太平洋機械翻訳協会(AAMT)の年次大会が東京都内で開催された。会場の様子を一部お伝えする。

【イベント概要】
日時:2023年11月29日(水)10:00〜17:10
場所:東京都港区 AP虎ノ門(オンライン配信あり)
会場参加:102名
オンライン参加:93名

~機械翻訳の今と未来を探る~

一般社団法人アジア太平洋機械翻訳協会(AAMT)は、機械翻訳発展のために活動する、研究者、提供者、利用者からなる組織。機械翻訳の課題や、未来に向けた取り組みについて発信するため、年次大会を開催している。今年も、自然言語処理、機械学習、産業翻訳・通訳など、さまざまな分野で活躍中の登壇者を迎え、「AAMT 2023, Tokyo」が開催された。虎ノ門の会場で行われた大会はオンラインでも同時配信され、参加者は会場参加が102名、オンライン参加が93名と前年度の人数を上回った。

会場となったAP虎ノ門 会議室の様子

会場には企業による展示ブースも設けられた。

招待講演①「LLMをめぐる諸課題」
黒橋禎夫氏(国立情報学研究所 所長/京都大学 特定教授)


国立情報学研究所(NII)所長で、京都大学特定教授の黒橋禎夫氏が、大規模言語モデル=LLMのこれまでの発展の流れと、LLMに関する諸問題について解説し、今後の日本におけるLLM開発の展望を示す講演を行った。
講演の前半では、自然言語処理技術とLLMの開発の歴史を振り返り、2022年に公開されたChatGPTではどんなことまでが可能になっているのか、様々な活用例も引用しつつ解説。後半では、LLM開発における現在の問題点(研究開発が一部の組織の寡占状態となっている、日本語の学習量が少ない、など)に触れ、オープンかつ日本語に強い大規模言語モデルの構築を行うことの重要性が語られた。日本でも多数の研究者が参加するLLMの勉強会(https://llm-jp.nii.ac.jp/)がすでに立ち上がっており、2024年4月には国立情報学研究所内に、国内の開発拠点となる「LLM研究開発センター」(仮称)が新たに設置予定だという。黒橋氏は「言語は知の基盤であり、コンピュータがLLMという形でその理解と生成の基盤をもったことの意味ははかりしれない。国と民間が協力して、日本でのLLM開発を推進する必要がある」と語った。


招待講演②「音声翻訳研究の現状と今後」
中村哲氏(奈良先端科学技術大学院大学 教授)


奈良先端科学技術大学院大学教授の中村哲氏が、音声翻訳(自動通訳)研究の現状と、今後の展望について伝えた。
中村氏は1986年から音声翻訳等の音声言語処理の研究に携わっており、シャープ(株)研究所、ATR音声言語コミュニケーション研究所所長、NICTけいはんな研究所長等を経て2011年より現在の奈良先端科学技術大学院大学に所属している。講演では、中村氏がこれまで携わってきた研究、特に2020年以降の最近の音声翻訳研究について、使用する技術の変化や、実際の研究成果(音声による同時通訳)がビデオ等も用いて解説された。また「LLMをどう活用するか」などの研究についての課題や、「より実用的な音声翻訳の開発をめざす」といった今後の方向性も紹介された。


ダイヤモンドサポーターランチョンセミナー「翻訳とMTの終わり」
スピーカー:山田優氏(立教大学 教授)
ファシリテーター:河野弘毅氏(株式会社ロゼッタ エバンジェリスト)


株式会社ロゼッタによるランチョンセミナー。立教大学異文化コミュニケーション学部 教授の山田優氏と、株式会社ロゼッタ エバンジェリストの河野弘毅氏という、機械翻訳に詳しい二人が登壇し、機械翻訳の現在と今後について12のキーワードを挙げて解説。「テーマの『翻訳の終わり』とは、今後は翻訳がより大きな『言語処理』の1分野になっていくことを指している」と語った。


ダイヤモンドサポーターランチョンセミナー「TOPPANによる通訳の自動化」
中村智憲氏(TOPPAN株式会社 情報コミュニケーション事業本部 ソーシャルイノベーションセンター ビジネス開発本部 本部長)


TOPPAN株式会社によるランチョンセミナー。TOPPANがB to B向けに実用化している音声自動翻訳サービス「Voice Biz」等について紹介された。商品のコンセプト、UIや使用環境の重要性など、音声翻訳サービスを実際に商品化して展開するという視点から、サービス立ち上げにあたり留意したことや、サービスの特徴などが語られた。


MT Summit 2023 参加報告
田中英輝氏(国立研究開発法人情報通信研究機構 研究統括)


AAMTの理事である田中氏が、9月に中国・マカオで開催されたMT Summit 2023の参加報告を行った。MT Summitでは、招待講演者から大規模言語モデル(LLM)についての考えが述べられ、「ほとんど英語でしか学習をしていないのに、翻訳が可能なのが良い点」「専門用語を翻訳するのが苦手」などさまざまな意見が挙がったようだ。次回のMT Summitは2025年にスイス・ジュネーブで開催される予定。


パネルディスカッション「通訳・翻訳の現実、技術と変革」
「通訳の現場」鶴田知佳子氏(東京外国語大学 名誉教授)
「MT時代の翻訳者教育・日本と世界の現状」阪本章子氏(関西大学 教授)
「生成AI時代の機械翻訳:現状と未来」中澤敏明氏(東京大学 特任研究員)
モデレーター:石岡映子氏(AAMT理事/株式会社アスカコポレーション 代表取締役)


機械翻訳の精度向上や生成AIの登場によって、通訳・翻訳の仕事にどのような影響があるのかについて、3人それぞれの立場からプレゼンテーションが行われた。鶴田氏は実例を用いて、通訳現場でAIが活用される場面を紹介した。阪本氏はヨーロッパにおける「欧州翻訳修士 2022年 技能フレームワーク」を紹介し、日本との違いを解説。中澤氏は、プレゼンテーションで実際に生成AIが作成したスライドを使い、テクノロジーとの共存は受け入れなければならないが、実力のある翻訳者はこれからも必要とされると締めくくった。