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2024.05.28 UP

草生亜紀子 著『逃げても、逃げてもシェイクスピア 翻訳家・松岡和子の仕事』【おすすめ新刊案内】

草生亜紀子 著『逃げても、逃げてもシェイクスピア 翻訳家・松岡和子の仕事』【おすすめ新刊案内】

通訳・翻訳・語学関連の注目の新刊書籍を、著者の方のコメントとともに紹介します。

シェイクスピアの全戯曲37作品を
28年かけて翻訳した松岡和子氏の半生紀

草生亜紀子 著『逃げても、逃げてもシェイクスピア 翻訳家・松岡和子の仕事』

逃げても、逃げてもシェイクスピア
翻訳家・松岡和子の仕事

草生亜紀子 著 新潮社
出版社HP
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【著者が語る】

英文の翻訳をしたことのある人なら、その苦しさは容易に想像がつくに違いない。シェイクスピアの戯曲37作を完全翻訳するなんて。松岡和子さんがその偉業を達成したのは日本人としては坪内逍遥、小田島雄志に続いて3人目。日本人女性としては初の快挙だった。400年前に書かれた英語はスペルも文法も「固まって」いない部分があり、今使われている英語とは大きく違う。その上、シェイクスピアは言葉遊びや省略・倒置など解釈を難しくする表現が数多ある。結果的に松岡さんの完訳には28年の歳月がかかった。

松岡さんが歩んだシェイクスピア完訳への道は、決して一本道ではなかった。大学の英文科では難しすぎて遁走し、劇団研究生を経て「勉強しなおそう」と思って入った大学院でもまた遁走して研究テーマを少しずらした。それでも、彼女の人生には節目節目で『夏の夜の夢』が登場して、シェイクスピアの道へと引き戻されていく。

戦時中の満州に生を受け、敗戦後命からがら日本に引き揚げ、ソ連に抑留された父の不在の間、母子で支え合って生き、進学・結婚・育児・介護など「女のフルコース」ともいうべき濃密なドラマと並行して語られる翻訳の苦しさと醍醐味を、ご同業の皆様に楽しんでいただけたら幸いです。

※ 『通訳翻訳ジャーナル』2024SUMMERより転載

草生亜紀子
草生亜紀子Akiko Kusaoi

くさおい・あきこ/国際基督教大学、米Wartburg大学卒業。産経新聞、The Japan Times記者、新潮社、株式会社ほぼ日を経て独立。現在、国際人道支援NGOで働きながら、フリーランスとして翻訳・原稿執筆を行う。著書に『理想の小学校を探して』(新潮社刊)、中川亜紀子名義で訳した絵本に『ふたりママの家で』(絵・文パトリシア・ポラッコ、サウザンブックス社刊)がある。