通訳・翻訳・語学関連の注目の新刊書籍を、著者の方のコメントとともに紹介します。
太平洋戦争で従軍した通訳者はなぜ裁かれたのか?
通訳の職務倫理について考える1冊
『通訳者と戦争犯罪』
武田珂代子 著 みすず書房
出版社HP
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【著者が語る】
業務中に違法行為を見聞きしたら
通訳者はどう対応すべきか
本書の前半は主に、太平洋戦争後に英国が行った対日戦犯裁判で有罪判決を受けた通訳者について述べていますが、後半では、通訳者の可視性、倫理的責任、守秘義務など、今日的課題を扱っています。実務者に特にお伝えしたいのは、通訳者の職務倫理に関する事柄です。
一般に、専門職の団体は倫理規定を設け、その遵守を構成員に求めます。それは、構成員の仕事の質を維持するだけでなく、社会的な信用を得て、専門職としての地位を世に認めてもらうためのものです。世界のさまざまな翻訳者・通訳者団体には倫理規定がありますが、その中身は分野(会議、医療、司法など)によって異なります。ただ一つ共通しているのは、守秘義務です。
本書では、業務中に違法行為や不正を見聞きした時でも通訳者は守秘義務を守るべきなのか、通訳者が当局への報告や司法手続きでの証言を行う事例とはどういうものかを論じます。また、違法行為や不正の場で通訳をしたら通訳者も刑罰の対象になりうるのか、という問いへの答えを探ります。加えて、通訳者は訳した内容に対する責任はないが、その仕事を引き受けたことや通訳したことで生じうる結果については倫理的責任を持つ、という考え方も紹介しています。
※ 通訳翻訳ジャーナル2023年秋号より転載
文立教大学異文化コミュニケーション学部・大学院研究科特別専任教授。通訳者・翻訳者としての長年の経験にもとづき、通訳翻訳の歴史、教育、社会的・文化的側面の研究に取り組んでいる。2011年までモントレー国際大学(現・ミドルベリー国際大学モントレー校, MIIS)翻訳通訳大学院日本語科主任。MIISで翻訳通訳修士号、ロビラ・イ・ビルジリ大学で翻通訳・異文化間研究博士号を取得。主な著書として『東京裁判における通訳』(みすず書房)『太平洋戦争 日本語諜報戦』(ちくま新書)、編著書として『翻訳通訳研究の新地平』(晃洋書房)、翻訳書として『翻訳理論の探究』『コリアン・シネマ』(みすず書房)などがある。