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Web3業界で日英通訳者として働く、大谷かなこさんによる連載!
「Web3ってなに?」「最近よく聞くけど、難しそう……」といった疑問に答え、いま需要が増えている、Web3業界での通訳のお仕事について解説していただきます。
通訳者だけではなく、「Web3」について知りたい翻訳者の方も必見です。
こんにちは!大谷かなこです。
前回の連載では、Web3業界内外にてたくさん反響をいただきました。みなさん本当にありがとうございます!
今回もWeb3通訳の仲間が一人でも多く増えるように、リアルな現場の情報をお届けします!

2025年に頻出するWeb3ジャンル:3選
さて、私が「Web3業界で通訳をしています!」と話していると、多くの通訳さんたちから「仮想通貨やNFTという言葉は聞いたことがあるけど、実際の通訳内容がイメージできない」という声をよくいただきます。
確かにWeb3はブロックチェーンを軸にさまざまな分野と融合していて、領域が非常に広いところが特徴です。さらにトレンドの移り変わりも速く、その年ごとに注目ジャンルも変わります。
業界にて「最新トレンド」と呼ばれるものもたった2週間たつと「それ古くない?」と言われる世界です。しかし通訳として正確な情報を届けるには、Web3に関する基礎知識の理解が不可欠です。
「Web3通訳に興味はあるけど、どこから学べばいいかわからない……」
そんな方のために、今すぐ現場に入ることになった場合を想定して、まず押さえておきたいジャンルをご紹介します。
今回は特に今年、通訳現場で頻出するジャンルを3つご紹介します。
1. Web3の土台を支えるインフラ=ブロックチェーン
2. 市場に影響を与える政治・クリプト経済
3. 金融を再構築するDeFi(分散型金融)
どれも現場で実際に求められている重要テーマです。今後の学習や予習の参考にしてみてくださいね。
1. インフラ:Web3の世界を支える基盤技術
「2025年のトレンド」というよりは、Web3の通訳をするなら必ず押さえておきたい分野です。
前回、Web3業界で最も重要なキーワード「Decentralization(非中央集権化・分散化)」のお話をしました。これは「デジタル上のデータを独占するのではなく、みんなで管理・所有しよう!」という考えです。
Decentralizationを実現するためには、ブロックチェーン技術が不可欠です。つまりブロックチェーンはWeb3技術の全てを支える土台=「インフラ」なのです。
Web3技術のインフラはまだまだ発展途上中です。そのためWeb3業界での通訳には、インフラ(ブロックチェーン)に関する知識と、その土台の上に作られるサービス・アプリケーションの理解がどちらも欠かせません。
まずインフラについては、現在世界中の企業が様々なブロックチェーンの開発に取り組んでいます。そのブロックチェーンは仕組みや特徴に応じて、様々な「レイヤー」にカテゴライズされます。
レイヤーの種類はたくさんありますが、まずは「レイヤー1(Layer 1)」と「レイヤー2(Layer 2)」を覚えましょう。(※それぞれ略して「L1」、「L2」と呼ばれることもあります)
・レイヤー1 (L1):ブロックチェーンの基盤となるネットワーク
(例:ビットコイン、イーサリアム)
・レイヤー2 (L2):主に処理スピードを上げるために、レイヤー1チェーン上に構築されたブロックチェーン


そしてそれぞれのチェーンには、株式会社でたとえるなら自社株のようなもの=自社の「トークン(≓仮想通貨)」を発行しています。(※厳密には、トークン自体には議決権があるものとないものの両方が存在します)
各プロジェクトは、自分たちのトークンをより多くの人に中長期で保有してもらいたい、そしてトークンの価格を上げたいという想いをもっています。
トークンの価格を上げるには、自社チェーン上により多くのサービスを作ることが必要不可欠です。(※Web3業界では「サービスを『乗せる』」と表現します) より多くのサービスが乗れば乗るほど、自社チェーンの需要を上げることができます。そして自社トークンの価格も上がります。
そして自社チェーンや、自社チェーン上に作られたサービスのファンが増えれば増えるほど、中長期でトークンを保有してくれる人も増えます。(※トークンを保有する人のことを「トークンホルダー(token holder)」といいます)
自社トークンを持つのはインフラだけではありません。ブロックチェーン上に乗せるサービスやアプリケーションにもそれぞれ、サービス内で集めて使用できる自社トークンを作ることが多いです。
✅TGE (Token Generation Event)
インフラとアプリケーションを問わず、自社トークンをもつプロジェクトの通訳に入る際に押さえておきたいのが「TGE(Token Generation Event)」というイベントです。
これは新しいトークンが正式に発行されてから、仮想通貨取引所に上場するまでの一連のイベントです。TGEを経て、初めて一般ユーザーも新しく生まれた仮想通貨の取引ができるようになります。
TGEの時期には、それまで応援してくれたファン(コミュニティ)に対して、運営側がイベントやキャンペーンを開催したり、応援してくれたお礼として自社トークンを無料で配る「エアドロップ(airdrop)」を実施したりするため、情報提供の場を作ることが多いです。つまり通訳ニーズが高まる時期と言っても過言ではありません。(※エアドロップは略して「エアドロ」と呼ばれることが多いです)
ちなみにファンコミュニティはサービスがローンチしてから徐々に作られることが多いですよね。しかしWeb3の世界では、サービスをローンチする前にユーザーコミュニティを作ることが多いです。
熱量の高いコミュニティを作り、ロイヤリティの高いユーザーを増やしてからサービスをローンチさせることで、運営側がトップダウンでコミュニティを運営するのではなく、ユーザーが自主的に活動したくなる、かつ他の人にも布教したくなるファンコミュニティができるのです。
通訳を担当するにあたっては、このようなビジネスの構造やトークン経済の仕組みについても、あらかじめ理解しておくことが重要です。
2. 政治・クリプト経済:価格を動かす「非技術的」な要素
実は仮想通貨の市場、いわゆる「クリプト経済」は、政治や国際情勢に非常に敏感に反応します。
たとえば2025年現在のアメリカでは、ドナルド・トランプ現大統領がビットコインなどに対して積極的な政策を打ち出しています。仮想通貨を「戦略的準備金(Strategic Reserve)」として保有するという構想を掲げ、2024年の大統領選の時期からWeb3関連のサミットやカンファレンスにも登壇してきました。
トランプ氏の発言ひとつで、即座にビットコインの価格が大きく変動することもあるため、Web3業界では日本でもトランプ氏の言動に注目する人が多いです。
他には、2025年6月だけでも、世界中で様々な出来事がありました。
✅ 6月4日:韓国で李在明(イ・ジェミョン)氏が新大統領に就任。仮想通貨やステーブルコインに関する政策を公約として掲げており、今後の発言がクリプト経済にも影響を与える可能性が高い。
✅ 6月13日(現地時間):イランがイスラエルの核関連施設にミサイル攻撃を実施。これによりビットコインやイーサリアム等の価格が大きく下落。
→ その後イスラエルとイランの停戦合意が発効されると、ビットコイン価格が急上昇した。
このように仮想通貨の価格は、株価のように政治の影響を大きく受けます。そのため最新の世界情勢に関するニュースを追うこともWeb3業界の通訳に入る際には重要です。
反対に言うと、すでに金融や国際政治の通訳経験がある方にとってクリプト経済は非常に親和性の高い領域です。ぜひ挑戦してみてください!
3. DeFi (分散型金融):ボーダーレスな新しい金融の形
DeFi (Decentralized Finance)=「分散型金融」とは、ブロックチェーン上でユーザー同士が直接お金のやり取りをする仕組みです。
(※日本語でも、そのまま「DeFi (ディーファイ)」と呼ばれることが多いです)
たとえば海外送金をするとき、国内で送金するよりも手数料が高いですし、着金までに時間がかかってしまいますよね。これは送金者と受取人の間に銀行が入っているからです。
銀行が手続きの間に入ることで、法定通貨(日本円やアメリカドルなど)の海外送金に関わる書類を確認するために時間がかかりますし、銀行側の営業時間によっては送金が遅れてしまうこともあります。
しかしDeFiでは法定通貨の代わりに仮想通貨を使って送金することで、世界中のどこにいてもすぐに相手に届きます。そして送金から着金までの履歴も全てブロックチェーン上に記録され、改ざんは非常に困難です。万が一お金をこっそり中抜きするような人が現れたら、中抜きした履歴までブロックチェーン上に記録されるのです。
こうして銀行等が間に入らなくても、人々は直接お金を送金し合うことができます。
✅ステーブルコイン
DeFi領域で頻出する用語のひとつに「ステーブルコイン」があります。
「2025年は『ステーブルコイン元年』になるのでは?」と注目が集まっています。
ビットコインやイーサリアムなど、仮想通貨と聞くと「値動きが激しい」という印象を持つ方も多いかもしれません。しかしステーブルコインは、法定通貨の価格と連動して価格が安定するように設計された仮想通貨です。たとえば「1ドル=1枚のコイン」といった形で、常に一定の価値を保つことを目的としています。
代表的なものには、アメリカドルと価格が連動した「USDT」「USDC」があります。この2つはアメリカドルをデジタル化した通貨と考えるとイメージしやすいでしょう。
「日本円をデジタル化した通貨はあるの?」と思う方もいるかもしれません。日本円に価格が連動したものには「JPYC」があります。将来的にJPYCが日常生活でも利用できるよう、現在は政府のライセンス取得などの取り組みが進められています。
韓国では李在明 新大統領が韓国ウォンに連動したステーブルコインの創設も提案しています。
さらにこれからは、ステーブルコインをそのまま決済に使うこともできるようになります。たとえば2025年6月13日には、Shopifyがサービス内でステーブルコイン決済を導入することを発表しました。
また、あらかじめステーブルコインを専用アカウントに入金しておくことで、デビットカードのように仮想通貨で支払いができるカードも続々と登場しています。こうしたカードを使えば、リアルな店舗やオンラインショップで、日常の買い物にも仮想通貨を使えるようになります。
もしかしたら近い将来、レジで「お支払いは現金ですか?クレジットカードですか?それともクリプト(仮想通貨)ですか?」と聞かれる日が本当に来るかもしれません。
ちなみに、Web3業界では報酬をUSDT、USDCで受け取る通訳案件も珍しくありません。もちろん日本円やアメリカドル払いもできますが、どの国にいても海外送金が安く、スピーディーにできるからです。
仮想通貨を管理するお財布=「ウォレット」をひとつ作っておくと柔軟にお仕事に対応できるようになるでしょう。(詳しくは次回の連載にて解説します!)
まとめ:Web3通訳の世界は深くて広い
「Web3通訳」とひとことで言っても、そのカバー範囲は非常に広く、すべてを網羅するのは困難です。まずは自分の興味のある分野をひとつ選んで、深掘りすることが、長く活躍するための第一歩です。
Web3は今まさに発展中の業界。新しい技術・用語・動きが次々と生まれますが、だからこそ通訳者として専門性を持つことで、大きなやりがいを感じられる分野でもあります。
最初は見慣れない用語やジャンル、背景知識が多く「何がわからないのかわからない……」という状態が続くかと思いますが大丈夫です。今から少しずつ慣れていけば、この変化の波に乗って、自分自身のキャリアも大きく広げていけますよ!
次回予告:カンファレンスシーズン到来!
次回は、いよいよWeb3通訳の仕事の取り方・探し方について解説します。
実は日本では、毎年7月〜8月はWeb3業界のカンファレンスシーズン。特に8月は月初から月末まで複数のWeb3カンファレンスが順次開催されるため、大変盛り上がる時期です。この期間は東京を中心に大型イベントが集中します。
しかも今年(2025年)は大阪万博の影響もあり、9月に大阪でも大規模なWeb3カンファレンスが開催されます。
海外スピーカーが登壇するセッションやグローバル企業の出展、また海外のキーマンの来日に合わせて商談通訳の依頼も多く、通訳者の需要は非常に高まる時期です。
次回の連載では、そんなWeb3カンファレンスシーズンにて、
・どのようにお仕事を見つけるのか?
・実際の案件獲得ルートは?
・事前の準備方法は?
・現場で気をつけることは?
といったテーマで、リアルな経験談を交えてお伝えしていきます。
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カリフォルニア州立大学チコ校卒業。Web3コンサルティング企業「0x Consulting Group」専属通訳。「Web3専門の通訳」として、社内会議だけではなく国内Web3イベントや記者発表会にて逐次・同時通訳に携わる。国内最大規模のWeb3カンファレンス「WebX」では西村経済産業省大臣や「2ちゃんねる」創設者ひろゆきの登壇セッションにて同時通訳も担当。数々のWeb3プロジェクトに携わる中で「言語の壁」が業界で大きな課題になっていることを痛感し、「同業界にて日本と世界を繋ぐ仲間を増やしたい」という想いから通訳者向けにWeb3教育も行っている。好きな英文法は「関係代名詞」。
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