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2024.07.29 UP

第9回 「断片」&「元気づける」の英語表現  snippet&galvanize

第9回 「断片」&「元気づける」の英語表現  snippet&galvanize

季刊『通訳・翻訳ジャーナル』本誌で連載し、ご好評をいただいていた「通訳者のためのビジネス英語ドリル」がWeb版になって登場!
放送通訳者の柴原早苗さんがビジネス通訳の場面で役立つ表現を取り上げ、訳出のコツや関連フレーズなどを紹介します。

「断片」&「元気づける」の英語表現

英語学習で大切なのは「自分の弱点を把握する」「その克服のためにできることを考える」を繰り返し実践することです。
このコラムの最大のポイントはまずはご自身で「やってみよう」ということになります。その第一歩が実際に訳文を「書いてみること」です。書くこともトレーニングになりますので挑戦してみてくださいね。
今回のキーワードは「断片」と「活気づける」です。早速見てみましょう。

練習問題1 日→英 通訳してみよう!

1.情報の断片は出てきているわけですよね?
2. それをもとにサービスを考えれば、利用者も活気づくと思いますよ。

決して難しい文章ではありませんが、これを自然な英文に通訳するにはどうしたら良いでしょうか?

まずは皆さんが訳文をノートなどに記入してみてください。

訳例1-1△
1. There is a part of information coming out, right?
2. If we base the service on that, I think the users will get a lot of energy.

解説
1.日英通訳の際、聞こえてきた日本語単語にピッタリな英単語が浮かばない場合、どうすれば良いでしょうか? 
すべての単語を訳せるに越したことはありませんよね。けれども現場に出ている通訳者たちでさえ、いつもそれができるとは限りません。緊張感ゆえに「訳語をど忘れしてしまった」ということもあり得ます。そのようなときは、「なるべく近い類語を探し出す」ことが肝心です。
「情報の断片」という言葉は、「情報の一部」ととらえることもできます。上記の訳例はそのようにして切り抜けていることがわかります。なお、「〜ですよね?」を right? で結んでいますが、何となく唐突な印象を抱かせなくもありません。もう一工夫あっても良いでしょう。

2.前半は問題なさそうです。むしろ改善が求められるとすれば後半の「活気づく」の英訳でしょう。通訳をしているとどうしても即応性が求められますので、「活気=energy」ととらえて get a lot of energy となったのがうかがえます。

ではもう少し洗練された英訳を見てみましょう。
 

訳例1-2◎
1. We have snippets of information, don’t we?
2. Based on that, the service can galvanize our users.

解説
訳例1と比べて全体的にコンパクトになりました。1文目の「情報の断片」をここでは snippets of informationと訳しています。snippet は今月のキーワードです。文末の「〜ですよね?」も right? の代わりに付加疑問文のdon’t we? にしています。このほうが少しソフトな印象を与えます。

2 文目では日本語の「考えれば」をあえて落として英訳しています。「誰が考えるのか」という部分が自明の理であれば、あえて訳出しなくても聞き手は推測してくれます。通訳の際にはこうした「省エネ」を工夫することも大切です。

「元気づける」をここでは galvanize という言葉で訳しています。snippetgalvanize もあまり聞き慣れない単語ですが、海外の英語ニュースなどではよく耳にします。そうした単語を使いこなせるようになると、通訳も生き生きとしてきますよね。今号ではこの2つの単語をじっくりととらえてみましょう。

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放送通訳者 柴原早苗
放送通訳者 柴原早苗Sanae Shibahara

同時通訳者。獨協大学およびISSインスティテュート講師。上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールドを経て現在はCNNおよび民放局で放送通訳業に携わる。近年では米大統領選、ノーベル賞、エリザベス女王国葬、テニスATPカップ、G7広島サミット記者会見、ノーベル平和賞受賞ユヌス博士、国会議員連盟の通訳などに従事。