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季刊『通訳・翻訳ジャーナル』本誌で連載し、ご好評をいただいていた「通訳者のためのビジネス英語ドリル」がWeb版になって登場!
放送通訳者の柴原早苗さんがビジネス通訳の場面で役立つ表現を取り上げ、訳出のコツや関連フレーズなどを紹介します。
「余裕」や「余地」の英語表現
フリーランス通訳業は繁忙期になると業務が立て続けに入り、準備に追われてしまいます。誰にとっても一日は24 時間ですが、私などつい心の余裕を失いかねません。もっと作業を効率化し、日々の生活を丁寧に穏やかに送りたいと思います。
そこで今号では「余裕」や「余地」に関わるフレーズを学んでいきましょう。
練習問題1 日→英 通訳してみよう!
1.全四半期の売上を振り返ってみたいと思います。
2.全体の純利益は約1 億500 万円でした。
3.まだ改善の余地があると思います。
上記の3文は「四半期」「売上」「純利益」に加えて数字も出てきます。中でも数字は必ず正しく訳出することが現場では求められますので、メモをしっかりとり、万全の態勢で臨みましょう。
まずは皆さんが訳文をノートなどに記入してみてください。
訳例1-1△
1.I think I would like to look behind at the sales of last quarter.
2.Totally, the profit was about 150 million.
3.I think we have more room for improvement.
解説
1.忠実な通訳ですが、原文の日本語にとらわれすぎています。日本語の「〜してみたいと思います」は「〜します」とほぼ同義です。一字一句にとらわれず、話者のイイタイコトを常に意識しましょう。
ところで look behind at は正しいでしょうか? 句動詞は元の基本動詞からかけ離れた意味になることもあります。この表現も一見正しそうですが、look behind は「後ろを振り向く」「背後を探る」という意味になり、この文脈では合致しません。
2.「純利益」という専門用語を単に profit と訳していますが、正しくは net profit です。会計用語を学ぶ際には基本書を読む、セミナーに参加するなどして内容そのものを理解しておきましょう。
さて、数字はどうでしょうか? 日本語では「1億500万円」と言っていますが、ここでは 150 million、つまり「1億5千万」と誤訳になっており、「円」も抜けています。こうした基本ミスは何としても避けるようにしてください。
3.センテンス1同様、I think で始めており、くどい感じです。一方、room for … は正しい使い方であり、工夫しているのがわかります。
通訳現場では日ごろどれだけたくさん勉強していても、使い慣れていないことばはとっさに出てきません。一つのことばを3つ以上の表現で訳せるような学習が求められます。
訳例1-2◎
1.
Let’s focus on last quarters’ sales.
2.
The net profit was roughly 105 million yen.
3.
We still have some leeway for improvement.
解説
1.「振り返る」という日本語にとらわれず、focus on を用いています。これは「集中する、〜に注目する」という意味です。これまでの2つの訳例に比べてコンパクトになっていますよね。通訳時にはなるべく端的に訳出することで、限られた会議時間が有効に使えるような配慮も大切です。
2.「およそ」「約」は approximately のほかに about や roughly などがあります。一つの単語を複数で言えるよう、日ごろから類語辞典を引いて語彙を増やすことも大切です。なお、日本語で「約」を使う際には「100」との聞き間違いを避けるため、「およそ」「おおむね」などを使うほうがベターです。
3.leeway という聞き慣れない単語が出ていますが、これも「〜の余地がある」という意味です。通訳現場でいつも同じ単語ばかりにならないよう、普段から多くの文章を読み、知らない単語もしっかりと意味や用法を調べるようにしてみましょう。そしてできるだけ使う頻度を増やすことが、応用力アップにつながります。
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同時通訳者。獨協大学およびISSインスティテュート講師。上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールドを経て現在はCNNをメインに放送通訳業にも携わる。近年では近年では米大統領選、ノーベル賞、エリザベス女王国葬、テニスATPカップ、G7広島サミット記者会見、ノーベル平和賞受賞ユヌス博士、国会議員連盟の通訳などに従事。通訳や英語関連のコラムも執筆中。