「自分だったらどう書き換えるか?」まで考えてみる
練習問題2 英→日 通訳してみよう!
1.
Thank you for participating in our tour today.
2.
There are a couple of reminders.
3.
Would you please note that you cannot leave the tour early.
以前私はお客様を工場見学へご案内したことがあります。そのとき、訪問先のセキュリティおよび衛生管理などの観点から、「いったん施設内に見学で入った場合、途中で退室することはできない」というお話がありました。
上記の文章はそのような状況を表したものです。
Would you please note that … を、日本の慣習に合った言い回しで工夫することがここでは求められます。
いくつか訳文は思い浮かびましたか? ではノートに書いてみましょう。
訳例2-1△
1.今日は私たちのツアーに参加してくれてありがとうございます。
2.いくつかのリマインダーがあります。
3.早くツアーから離れることはできません。注意してください。
解説
1.「〜してくれて」というのは親しい間柄であれば許されますが、フォーマルな場面では敬語をきちんと使いこなすことも求められます。訪問先あるいはお連れする方々の立場や上下関係など、通訳業務前に調べておくと良いでしょう。
2.「リマインダー」というカタカナ語があまりにも多く出てきてしまうと耳障りに思うお客様も少なくありません。特に通訳者は脳がくたびれてくると、カタカナを「てにをは」で結ぶだけの訳になりかねないのです。休憩を適宜とっていただくよう、あらかじめエージェントを通じてお願いしておくことも、品質の保持には必要なことです。
3.「〜できません。」という具合に、否定形で文章を終わらせると、日本語ではかなりきつく聞こえてしまいます。どのように聞こえるかを意識することを考えるとこの訳文は改善の余地があると言えるでしょう。
「注意してください」もストレートすぎる感じがしますよね。
訳例2-2◎
1.本日は私どものツアーにご参加くださいましてありがとうございます。
2.注意点をいくつか申し上げます。
3.申し訳ございませんが、ツアーを途中で抜けることがあいにくできませんので、あらかじめご了承くださいませ。
1.「私どもの」と一言入れることで、より丁寧になっているのが分かります。また、「本日」としているところにも注目してください。
ちなみに、あるアナウンサーの方が記した本の中に「『ん』や小さい『っ』をなるべく言わないようにしている」という記述がありました。たとえば「いるんです」ではなく「いるのです」、「あった」ではなく「ありました」という具合です。こうした細かい部分も日本語では大切ですよね。
2.「申し上げます」という日本語はよく使われる表現です。どのような言葉を普段から使いこなせるかが本番では生きてきます。
3.女性の場合、最後を「ませ」で終わらせると、穏やかな雰囲気が生まれます。TPOに応じて、また、通訳者自身の判断でそうした工夫も思い切って実行してみるのも一案です。
「あらかじめご了承ください」も頻出表現ですので、原文の英語にたとえ出てこなくても、臨機応変にスラスラと声に出せるよう、意識するようにしてみてください。
* * *
今回のテーマは「ご注意ください」でした。ところでみなさんは公共交通機関を利用する際、英語表示に注目したことはありますか? 中でも興味深いのが、日本の場合「〜してください」をそのまま英語で Please から書き始めている点です。以前暮らしていたイギリスではすべて命令口調、しかも大文字での表記でした。たとえば DO NOT RUN という具合です。注意喚起を促すため、do not と離して記載し、大文字で綴るのですね。
日本で見かける表現の中にはときどき「?」というものもあります。「では自分だったらどう書き換えるか?」まで考えてみることが「自立学習」となります。みなさんもさまざまなものを素材に学習を続けていってくださいね。
★前回のコラム
同時通訳者。獨協大学およびISSインスティテュート講師。上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールドを経て現在はCNNをメインに放送通訳業にも携わる。近年では近年では米大統領選、ノーベル賞、エリザベス女王国葬、テニスATPカップ、G7広島サミット記者会見、ノーベル平和賞受賞ユヌス博士、国会議員連盟の通訳などに従事。通訳や英語関連のコラムも執筆中。