• 通訳

2024.09.04 UP

第10回 「お詫び」に関連した英語表現
regret

第10回 「お詫び」に関連した英語表現<br>regret

季刊『通訳翻訳ジャーナル』本誌で連載し、ご好評をいただいていた「通訳者のためのビジネス英語ドリル」がWeb版になって登場!
放送通訳者の柴原早苗さんがビジネス通訳の場面で役立つ表現を取り上げ、訳出のコツや関連フレーズなどを紹介します。

「お詫び」に関連した英語表現

数年前に『謝罪の王様』という映画がヒットしました。脚本家・宮藤官九郎氏と水田伸生監督による作品です。この映画は「謝罪」がテーマで、オムニバス形式で複数のエピソードが盛り込まれています。「海外では安易に謝らない」という環境下で育った帰国子女、いい加減な謝り方をして訴えられた若手社員、謝罪のしぐさひとつで国際問題に発展した外交官など、多様な観点から描かれています。
「謝る」という行為も日本と英語圏では大きく異なることを、コミュニケーションの世界で仕事をしていると感じます。
そこで今回は「お詫び」に関連した表現を見ていきましょう。

練習問題1 日→英 通訳してみよう!

1.申し訳ございませんが、弊社では対応いたしかねます。
2. つきましては他社様をあたっていただけますでしょうか?

これは「相手の申し出に対してお断りを述べる」という状況を表しています。「弊社」「いたしかねます」など、日本語特有の表現も出ています。これを相手が理解しやすい英語に通訳してみて下さい。完璧でなくても構いません。

まずは皆さんが訳文をノートなどに記入してみてください。

訳例1-1△
1. I’m sorry. Our company cannot do it.
2. So, can you ask another company, please?

解説
相手に謝罪をする際、日本語でも「すみません」「ごめんなさい」「失礼しました」「申し訳ありません」「申し訳ございません」などたくさんありますよね。ここに出てくるのは「申し訳ございません」ですので、かなり丁寧な部類に入ります。I’m sorry でも通じますが、ここはもう少し丁寧さがにじみ出た方が良さそうです。また、後ろには Our company とあり、先の Iour が混在しています。ここもひと工夫が必要です。
2文目の英語も決して間違いではありません。最後に please が付いていますので一見丁寧です。しかし pleaseという単語は用法に注意が必要です。大修館書店の『ジーニアス英和辞典(第5版)』によると、please の位置について「文末では形式的な言い方となる」と説明されています。この文章では相手に依頼をしているわけですので、単なる形式で終わらない方が良いでしょう。
なお、全体的に1文目も2文目も短い印象があり、もう少し言葉を追加してこちら側のお詫びの気持ちを盛り込む方が、相手に誠意が伝わります。
では改善版の英訳を見てみましょう。
 

訳例1-2◎
1. We sincerely regret that our company is not in a position to deal with the matter.
2. Therefore, would you be so kind as to ask another company?

解説
訳例1-1がワード数だけ見てもかなり短かったのとは逆に、訳例1-2ではずいぶん長文になっているのがわかります。
We sincerely regret that … はお詫びの中でも丁寧さがにじみ出ている表現です。sincerely(心から)のほかにもdeeply(深く)、truly(本当に)などの副詞がここでは使えます。
冒頭のweour company が一人称複数で統一されているのもわかります。

2文目の「つきましては」も訳例1-1ではsoとなっていましたが、ここはthereforeの方がよりフォーマルな印象を聞き手に与えます。
「〜していただけますでしょうか?」の Would you be so kind as to … ? は丁寧な依頼表現です。Would you be kind enough to … ?と言い換えることもできます。

英文ライティングでは「結論を先に」「単刀直入に」「短く」というアドバイスがよく見られますが、こと「謝る」という行為に関しては日本同様、誠意を持って丁寧な表現を使うことが大切です。

Next→今回のキーワード

放送通訳者 柴原早苗
放送通訳者 柴原早苗Sanae Shibahara

同時通訳者。獨協大学およびISSインスティテュート講師。上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールドを経て現在はCNNおよび民放局で放送通訳業に携わる。近年では米大統領選、ノーベル賞、エリザベス女王国葬、テニスATPカップ、G7広島サミット記者会見、ノーベル平和賞受賞ユヌス博士、国会議員連盟の通訳などに従事。