『HIP HOP ENGLISH MASTER』Vol.8

昨年『HIP HOP ENGLISH MASTER』(Gakken)を刊行した、ラッパーのMEISOさん。実は通訳者・翻訳者としても活躍しており、日本会議通訳者協会主催「同時通訳グランプリ2019」ではグランプリ、「B-BOY PARK2003」ではMCバトル王者という異例の2冠を達成しています。
最近よく耳にするパラレルキャリアという言葉。今回は、ラップと通訳翻訳でパラレルキャリアの道を進むMEISOさんに、通訳翻訳者とパラレルキャリア、パラレルキャリアの利点や注意点などについて語っていただきました。MEISOさんの周りの通訳者や翻訳者は、パラレルキャリアを選択している人も多いのだとか。

パラレルキャリアと通役者・翻訳者

パラレルキャリアとは?

ここ数年パラレルキャリアという言葉をさまざまな場面で目にするようになりましたが、どうやら自分の働き方も割と前からパラレルキャリアに近いらしいことがわかってきました。

パラレルキャリアとは「本業を持ちつつ第2の活動をすること」と定義されるそうです。本業とパラレルで、つまり平行して行う活動。「副業」と同じようなイメージを持つ人も多いかもしれないが、実はちょっと違うらしい。簡単にいうと「副業」は純粋に収入を増やすのが目的なのに対して、「パラレルキャリア」は自己実現や社会貢献など、人生を豊かにすることが目的。もちろんその過程で報酬を得ることもあるけれど、お金がメインではないのだ。

例えばパラレルキャリアには「ボランティア活動をする」「サーフィン教室をする」「趣味の映画鑑賞について記事を書く」なんてものも入るし、週末に「YouTuber」として活動することなんかも入りそうだ。また、本業と並行して何かのスキルを磨くのもパラレルキャリアに該当するらしい。次のキャリアのためのスキルアップを、休日などに行うのがこれにあたる。

通訳翻訳者で例えると、本職の「社内通訳翻訳者」をしながら「字幕翻訳の学校」に通ったり、仕事を少しずつ受けたりして、「映像翻訳者」の道をめざす。または、仕事をしながら「通訳学校」に通ってフリーランスとしてデビューをめざすのも、パラレルキャリアだろう。実際に僕の周りの通訳翻訳者も、ほとんどが本職以外に何らかのスキルアップや仕事に取り組んでいる。本当に通訳翻訳者って真面目な人が多いですよね。そしてそんな姿を見ると自分もやらなきゃ、と刺激をもらいます。

パラレルキャリアのメリットや注意点

パラレルキャリアで次の道を模索することの利点は色々あるのだろうが、やっぱり大きいのは転職のリスクを減らせるところだろう。仕事を辞めることは、収入源を一度失うことを意味するため、転職などで次のステップへジャンプするのには、かなり度胸がいる。貯金をしっかりしていて独身ならまだしも、養う家族がいればなお越えるべきハードルは高くなるし、転ぶことは許されないというプレッシャーもあるだろう。

また、本業以外の活動で得た経験、広い視野、スキルアップ、自己マネジメント能力向上、などの成果を本業に持ち帰ることで、本業への貢献度を上げられるのも魅力だ。最近は終身雇用、年功序列など、日本企業に多い制度がフェードアウトし、副業やパラレルキャリアを許可する企業が増えた流れがある。企業側からは双方にとってWINWINとなる新しい働き方が期待され、注目を集めている。

では、パラレルキャリアのネガティブな面は何だろう?あえて挙げるとしたら、本業後の夜間や休日に仕事などをすることによる疲労だろうか。オーバーワークはパフォーマンスを低下させるので、そこはバランスを取りながらやらなければ、まさに二兎を追う者は一兎をも得ず、になってしまう危険性はある。体調不良は通訳者にとって致命的だからこそ、しっかりと睡眠時間を確保し「体調管理するのも仕事の内」と僕自身叩き込まれてきた。この点はパラレルキャリアにトライする場合、より注意する必要があるだろう。

また、僕の通訳翻訳サービスのマネージャという仕事柄、通訳翻訳者の仲間に仕事をオファーすることがちょこちょこあるが、それぞれの本業の会社との契約内容によっては外部での仕事がNGな場合もまだ一定数ある。パラレルキャリアを開始する前に念のため、会社所属の場合は人事部などに問い合わせるのが無難だろう。ただ、入社時は副業禁止でも、その後就業規則などが変更になることもあるし、交渉次第で認められることもあるので、それも含めてまずは相談してみるのが良いと思う。

ラップと通訳翻訳のパラレルキャリア

通訳翻訳とパラレルキャリアについてあれこれ書いてきましたが、僕の場合はご存知のようにラップと通訳翻訳のパラレルキャリアです。本業はどっち?という質問は一旦華麗にスルーしつつ、最近何をやっているのか少し紹介します。昼はエンタメ関係の通訳翻訳サービスのマネージャ。チームの管理、案件の管理、顧客対応、そしてもちろん通訳翻訳案件対応などなど。そして夜はラッパーとして曲作り(9月27日に新曲「Mothership」をリリースしました!ぜひ各種ストリーミングサービスでチェックをお願いします!)、ラップ関連の書籍の翻訳(こちらも近日情報公開予定)、そして英語学習用ラップ教材の作成をしています。2024現在制作中の教材ラップに関しては、情報公開のタイミングでまた紹介させてほしいですが、我ながらなかなかおもしろいものができてきています。

一見結びつくことのなさそうなラップと通訳翻訳のパラレルキャリアですが、英語学習用ラップ教材(ご興味のある方はぜひ2023年にGAKKENよりリリースしているHIP HOP ENGLISH MASTERをチェックしてみてください。)の制作はその二つの世界がうまく交差する形で取り組めていて、非常にやりがいを感じています。前例がほとんどないものなので手探りではありますが…そこがおもしろいんですね。これを読んでいる皆様もぜひ、ご自身の好きなものと本職とのパラレルキャリアにトライしてみてください。きっとその先におもしろい働き方が待っているはずです。では🤙

【試聴】HIP HOP ENGLISH MASTER (SAMPLE MIX)

【書籍紹介動画】『HIP HOP ENGLISH MASTER ラップで上達する英語音読レッスン』

【Podcast】HIP HOP ENGLISH SCHOOL(ヒップホップ ・イングリッシュ・スクール)
-MEISO&EM島

MEISOと、編集者のEM島がおくる、ラップを通して「世界」と「英語」を学ぶ、ヒップホップ エデュテインメントプログラム。
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MEISO
MEISO高木 久理守

日本生まれ。幼稚園まで米国で育ち、小・中・高は日本で過ごす。ハワイ大学卒。アニメーション制作会社の社内通訳者で、通翻訳チームのリーダー。CGアニメ・映像制作を中心に通訳として活動。2019年、日本会議通訳者協会主催「同時通訳グランプリ」でグランプリを受賞。またラッパーとしても「B-BOY PARK2003」MCバトル王者として知られる。アルバムを5枚リリースし、最新作は「轆轤」(2017)。「ENGLISH JOURNAL」に「英語でラップを学ぶ〜Rap in English!」を寄稿。