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通訳者・翻訳者のプロになるためには、通訳・翻訳の専門スクールで学んで、スキルを磨くのが一般的ですが、海外で通訳・翻訳を学ぶという選択肢もあります。そんな道を選んだ先輩へのインタビューを紹介します。
大学卒業後、社会人になってから通訳者になることを志し、ロンドンメトロポリタン大学 会議通訳修士コースで学んだ溝田樹絵さんに、大学のカリキュラムや試験の内容などについて詳しく語っていただきました!
東京大学経済学部卒業後、一般社団法人に勤務。社会人5年目に海外の大学院で通訳を学ぶことを決意。2019年9月、ロンドンメトロポリタン大学会議通訳修士コースを修了、一般社団法人に復職(現在は欧州にて海外単身赴任中)。
授業で会議通訳を鍛えられ
欧州の政治経済にも詳しくなりました
Q. なぜ留学を?
大学卒業後、仕事中に「通訳者」の仕事を間近に見たことから、通訳に興味を持ち始めました。国内の通訳学校に通っているうちに海外への大学院留学を考えるようになり、ロンドンメトロポリタン大学で開催された1週間の短期コース「Introduction to Conference Interpreting」に参加したことをきっかけに、同校への進学を決めました。 ロンドンメトロポリタン大学は修士課程を1年で修了できること、クラスメイトの出身国や年代が多種多様であることが大きな決め手になりました。
Q. クラスメイトはどんな人?
ヨーロッパを中心に、アジア、アフリカなどからさまざまなバックグラウンドを持った学生が集まっています。ヨーロッパでは3カ国以上の言語に堪能であることも珍しくなく、通訳する言語の組み合わせも数も人それぞれ。同じ言語の組み合わせの学生同士で集まったり、その言語の組み合わせのチューターから教えてもらったりすることもありますが、授業のほとんどは言語にかかわらずみんなで一緒に受けます。
今年はクラスメイト15人のうち私を含め3人が日本人で、例年に比べて日本人の割合が多いそうです。英語⇔日本語の仲間がいるということは、ブースワークなど1人ではできないことを実践的に学べるなど大きな利点があります。何より、困ったときに助け合える安心感は大きかったです。
Q. 前期のカリキュラムは?
前期は「逐次通訳」「リサーチと理論」「会議通訳1」を学びました。
基本は週に3コマの「逐次通訳」です。記憶訓練、ノートテイキング、言語/非言語コミュニケーション、プレゼンテーション、予測、集中力など、通訳の勉強をする上で必要な事柄が詰まっています。特徴は、毎週課されるスピーチです。課題テーマに沿って両言語(私は英語と日本語)でリサーチをして単語リストを作成し、内容を考案した上で自分のスピーチを動画で提出します。
「会議通訳1」は同時通訳の授業です。日本の通訳学校の場合、最初は逐次通訳訓練から始めますが、こちらでは逐次と並行して同時通訳の訓練をします。メインは模擬会議で、午前・午後で、各6名ずつのスピーカーが1人約10分ずつテーマに即したプレゼンテーションを行います。
前期は、原則としてB言語からA言語への一方向のみの通訳を行います。A言語は母語または母語と同等の言語、B言語は母語
ではないが堪能に使える言語、C言語は理解することはできるがアウトプットは完全でない言語を意味します(AIIC(※)の定義による)。私の場合はA言語が日本語、B言語が英語なので、前期は英語→日本語への通訳に特化しました。
※AIIC…1953年に設立された国際会議通訳者連盟。URLはhttps://aiic.net/
Q. 後期のカリキュラムは?
後期は「EU/UN」「会議通訳2」「TI PE」という3つのモジュールがあります。「EU/UN」は欧州連合(EU)と国際連合(UN)に特化した内容です。全4回の模擬会議に加え、EUとUNについて6回ずつ、それぞれの組織の仕組みや歴史などについて知識を深めるワークショップがあります。
「会議通訳2」は、前期の「会議通訳1」の続きのような位置づけです。計4回の模擬会議では午前・午後に分かれて同時通訳の練習を行います。
前期との最大の違いは、日本語→英語への同時通訳があることです。「TIPE」は“The Interpreter’s Professional Environment”、すなわち通訳者を取り巻く労働環境について、グループディスカッションを中心に進められる授業です。仕事を受けるための人脈作りやSNSの活用法などを学んでいます。
せっかくの留学の機会だったので、自分が選択した「EU/UN」モジュールに加え、オプションで「公共通訳」のモジュールを追加しました。警察や法廷などの公共サービス通訳「PSI」のためのモジュールで、Chartered Institute of Linguists(CIOL)という団体が主催している認定試験を受けて、合格してDiploma in Public Service Interpreting (DPSI)という資格を得て初めて公共サービス通訳ができるようになります。私は「イングランド法」分野を選択して、日英双方向での通訳・翻訳の認定試験を6月に受験し、合格しました。法廷での民事・刑事裁判における審理、警察署の事情聴取等のロールプレイを通じて、会議通訳コースでの実践機会が少なかった日英逐次通訳の練習をしたり、こうした特殊な場面に対応した知識や語彙力、通訳する際の対応力等が身についたと思います。
Q. 期末試験は?
前期の期末試験では、「逐次通訳」と「会議通訳」の試験がありました。「逐次通訳」の試験では、6分間のスピーチを一気に英語→日本語に訳しました。スピーチの題材は時事問題で、数字、イディオムやことわざも含まれます。用語集、辞書など持ち込みはできません。
「会議通訳」の試験は10分間の同時通訳です。題材はこれまでの模擬会議で扱ったトピックで、言語はこちらも英語→日本語のみ。スライドを用いたプレゼンテーションの同時通訳で、試験開始と同時に6枚ほどのスライドのコピーを渡され、10分間の準備時間が与えられます。こちらは用語集、辞書、スマートフォンなど持ち込みが可能で、準備時間を利用してその後の通訳に備えるという形式でした。
後期は「EU/UN」「会議通訳2」の試験がありました。「EU/UN」は英日のみで逐次・同時両方、「会議通訳2」は英日・日英両方で同時通訳のみで、いずれもGlossaryの復讐を中心に対策をしました。各試験前にはキーワードや状況説明を与えられて10分間、Glossaryや辞書、インターネット、用意した資料などを用いた準備時間があります。自分で練習しているときには味わえないこの準備時間10分と本番との緊張感が、スポーツに似ているようで実は割と好きでした。
Q. どんなところが伸びた?
通訳の準備や周辺学習を通じて得た知識に加えて、1年間の会議通訳修士のプログラムを通じて、まとまった時間集中して量をこなしたことで、体が通訳に慣れたと思います。
海外で通訳・翻訳を学びたい人へのAdvice!
社会人の場合「これから留学なんて遅すぎるのでは」と思うこともあるかもしれません。けれどもこの先の人生の中で、「今この瞬間」が一番若いのです。行きたいかもしれない、頑張れば行けるのではないか、と思ったら実行するとよいのではないでしょうか。得るものは多いと思います。
ロンドンメトロポリタン大学
会議通訳修士コース
(Conference Interpreting MA)
プロの会議通訳者を目指す人のための修士コース。英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、日本語、ポーランド語、ロシア語、スペイン語などで学ぶことができる。詳細は大学のWebサイトへ。
https://www.londonmet.ac.uk/courses/postgraduate/conference-interpreting—ma/
(書類選考通過者は入学適性試験に進む。入学適性試験は月2回、英語から外国語への翻訳、多言語でのプレゼンテーション、英語から母国語への通訳、エッセイ、教授陣による面接が含まれる/Webサイトより)